賃借権にある本件ビルの所有者Aは、敷金なし、賃料月額80万円、期間3年とする賃貸借契約をXと締結した。この賃貸借契約においては、敷金なしなため賃料月額を約2割安く設定するかわりに、修理・改築の費用はXが全部負担することとされていた。本件ビルは築40年のため老朽化がひどく、畳と障子は一部雨漏りも見受けられた。しかし、Aは、Yから本件ビルを安く譲り受けて、本件ビルを最新デザインの商業ビルに生まれ変わらせたうえで、本件ビル内で飲食店・衣料品店を経営することにより、多額の収入を得ることを計画した。そこで、Aは、建物修理・内装工事の専門業者Xに本件ビルの修理・改築工事を3000万円で依頼し、承諾、Yは、この工事を完了し、Aに本件ビルを引渡した。ところが、Aは、当初の計画どおりにビルの収入を得ることができず、Xに報酬を支払うことができないままであった。その際、Aは行方不明となり、XのAに対する報酬債権は回収不能となった。Yは、賃料不払を理由にAとの賃貸借契約を解除する意思表示をしたが本件ビルの明渡請求を求める訴訟を提起し勝訴判決を得て、この判決は確定した。現在、本件ビルはYが占有しており、本件ビルの価格はXによる修理・改築工事によって3000万円上昇している。以上の場合において、XはYに対して増額相当額3000万円を請求することができるか。Yからの反論に留意しながら、理由を付して論じなさい。参考判例① 最判昭和45・7・16民集24巻7号909頁② 最判平成7・9・19民集49巻8号2805頁[解 説]1 転用物訴権の意義と経緯契約に基づいて給付が行われたが、この給付が契約の相手方だけでなく第三者の利益にもなった場合に、給付者はその第三者に対して利益の返還を請求する権利を有する。この権利を転用物訴権という。学説は、複雑な問題を指摘しながら、この転用物訴権を広く認めようと考える参考判例を大いに批判した。その後、参考判例②は、学説による批判を受け入れ、有償事例において転用物訴権を否定するに至る(学説の多くはこの参考判例②が参考判例①を実質的に変更したと評価しているが、異論もある)。また、現在の不当利得法の通説である類型論は、転用物訴権に対して否定的な立場に立つ。以下では、転用物訴権の成否について判例・学説を踏まえながら検討していくことにしよう。(1) 転用物訴権を最初に認めた参考判例①とその問題点Y所有の甲(ブルドーザー)を賃借していたAは、Xに甲の修理を依頼した。Xは、修理を完了しAに甲を引き渡したが、Aが倒産したためY所有の甲に関する報酬債権をAから回収することができなくなった。これに対して、YはAから甲を取り戻して転売し利益を得た。そこで、Xは、不当利得を理由にYに対して甲修理に関する報酬相当額を請求した。ただし、A・Yの賃貸借契約においては、Xの賃料を相場より安くする代わりに甲の修理費用はAが負担するという特約があった (この特約が最初に事実認定された参考判例①の忘れてはならない点である)。第1審・原審は、Xの損失はAが倒産したことによる報酬債権不履行に基づくものであって、Xの損失とYの利得との間に因果関係は認められないが、Xの損失とYの利得との間に間接的な因果関係を認め、Xの請求を棄却した。参考判例①は、Yの修理に要した費用および労務に相当する損失がXに生じた一方で、これに相当する利得がYに生じたため、Xの損失とYの利得の間には直接の因果関係があった、③XはAに対して報酬債権を有するがため、Yに対して不当利得返還請求をしないのが契約の原則であるが、Aが無資力のため報酬債権が無価値であることは、その限度においてYの利得はXの犠牲および負担において生じたものであることを考慮すると、甲の修理費用はAが負担するという特約がA・Y間にあったとしても、Xは、Aに対する報酬債権が無価値である限度において、Yの利得を返還請求できるものと解する、と判示して、原判決を破棄し差し戻した。以上からすると、参考判例①は、Yの利益獲得につき有償・無償の区別を前提とせず (すなわち有償性を捨象せず)、Xの損失とYの利得との間には直接の因果関係があることを前提に(前述①)、Xの報酬債権が無価値である限度において、XのYに対する転用物訴権を肯定したとみえる(前述②)。(2) 学説の反応 (参考判例①の問題点)このように転用物訴権を広く認めたとみえる参考判例①を、多くの学説が批判した。たとえば、転用物訴権の否定説は、契約の効力は契約の当事者の間にしか及ばないのが原則であり、その結果の財貨の移転リスクを負担するのはXである、また、その結果契約外のYが利益を得ようと、Yの財貨取得が契約全体からみて正当と認められる場合(以下、「有償事例」という)に無償で認められる場合(以下、「無償事例」という)などに分け、有償事例では、Yは利益獲得のために対価を支払っているから、Xに転用物訴権を認めるとYは二重に負担となってしまうのに対して、無償事例では、無償で取得したYはXの犠牲を優先すべきであるから、この無償事例に限ってXに転用物訴権を認めるべきである、と判示した。その後、参考判例②は、類型的な発想からか、有償事例においてはこの転用物訴権を否定するに至る。(3) 参考判例の内容と参考判例①との関係Y所有のビルを賃借していたAは、Xにビルの修理・改築を依頼した。Xは、修理・改築を完了しAに甲を引き渡したが、甲修理・改築に関する報酬債権をAから回収できず事実上倒産した(その後行方不明)。これに対して、YはAから修理・改築された甲を取り戻した。そこで、Xは、不当利得を理由にYに対して修理・改築に関する報酬相当額を請求した。ただし、A・Yの賃貸借契約においては、Xの賃料支払免除をする代わりに甲の修理・改築費用はAが少額負担するという特約があった。原審は、Y調査審は報酬を支払っていないXに損失がないとして、Xの請求を棄却した。参考判例②は、Aが無資力のためこの報酬債権が無価値である場合において、Yが法律上の原因なくXの財産および労務に相当する利益を受けたとみるのは、A・Y間の賃貸借契約を全体として、Yが利得を無償で受けたときに限られる、と判示する。なぜなら、Xの賃貸借契約において利益に対応する負担をしたときは、Yの利益は法律上の原因に基づくものであり、XがYにこの利益につき不当利得返還請求をするのはYに二重の負担を強いる結果となるからである。したがって、Yの利益はAの賃料支払免除の負担という負担に対応し、Yが法律上の原因なく利益を受けたとはいえない、と判示した。以上からすると、参考判例②は、特定物育成説を(必ずしも完全な形ではないが)受け入れ、Yの利益獲得には、Yの利益獲得に法律上の原因があることおよびYの二重負担を回避すべきことを根拠として、XのYに対する転用物訴権を否定したとみえる。(2) 参考判例②との関係参考判例②が転用物訴権を不当に広く認めたようにみえることから(前述2(1)②)、多くの学説は参考判例②を実質的に判例(参考判例①)を変更したと評価している。しかし、この判例変更の評価には、次の3つの理由から疑問がある。第1に、参考判例①は、Xの損失とYの利得の因果関係を否定した原判決を破棄したにすぎないから、参考判例①の先例的価値は、破棄の直接の対象にある主要な判断部分、すなわち、Xの損失とYの利得との間に直接の因果関係ありとする判断部分 (前述2(1)①) にとどまること。これに対して、参考判例②は、Xの損失とYの利得との間に因果関係なしと判示しているわけではない。第2に、XのYへの利得がXの損失により生じた(つまり、Yの利得がXの犠牲および負担により生じた)のは参考判例①の忘れてはならない点であり、参考判例②は、必ずしも有償事例を無償で取得したものではない。これに対して、参考判例②は、有償事例を前提としている。第3に、最高裁が大法廷を開き先例とは異なる判断を示す場合は大法廷での判断を前提とする(判例変更手続)。したがって、参考判例①は、有償・無償の区別を前提とせず(有償性を捨象せず)、Xの損失とYの利得との間に直接の因果関係ありと判示したにとどまるから、参考判例②は、参考判例①を形式的にも実質的にも変更しないと評価できる。(4) 参考判例での問題点と公平説参考判例②の結論は支持されるべきであるが、無償事例で転用物訴権を肯定するその理論的構成には、検討の余地があろう。すなわち、参考判例②は、無償事例においては、Xの利益獲得に法律上の原因がなくYに二重に負担することもないから、Xの転用物訴権を肯定するものとみえる。しかし、この公平無償説によると、無償事例において、Yが当該財産を売却するなど、客観的価値を主張できる。また、Aに無償のリスクを負担するのはXとAとの間の契約で解決すべき問題であり、Xの無償リスクを肯定することはAとの間の契約でその取得の対価関係がなかったことによるものである。次に、Yの利益獲得には法律上の原因あり、その結果、無償事例においても、民法703条の要件(法律上の原因の欠如要件)は満たされず、転用物訴権は否定されるべきである。すなわち、「法律上の原因の欠如」というための根拠が明らかでない。(2) 公平説に基づく参考判例①ところが、参考判例①は、これら2つの問題点があるにもかかわらず、あえて無償事例においてXの転用物訴権を肯定しようとする。この理由としては、かつて不当利得法における通説でありかつ最近の判例が採用する公平説が考えられる。この公平説は、「結果的に」一般的には正当視せられる財産的価値の移動が実質的に相応的には正当視せられない場合に、公平の理想に従ってその矛盾の調整を試みんとすることが不当利得の本質である、と主張する。また、公平説の中でもとりわけ当事者の利益の考慮を重視する説によって当事者の範囲を決定するという、このような公平説によれば、XとYを比較してXのほうが保護に値するときは、たとえ前述の2つの問題があったとしても、Xに転用物訴権を認めることができよう。以上からすると、参考判例①は、XがAの無資力により修理等に関する報酬債権を回収できなくなったのに対して、YがXの修理等による利益を無償で得たときは、公平説に基づき、Xの報酬債権が無価値である限度において、Xの保護を重視しXの転用物訴権を肯定する、という一般論を述べたといえよう。(3) 公平説の問題点しかし、参考判例②が公平説を採用したとしても、後述の2つの問題点を克服できるわけではない。また、もし公平説に立ったとしても、そもそもXのほうが保護に値するといえるのか。(1)で述べたように、本来ならばAの無償リスクを負担すべきはX自身である。それにもかかわらず、偶然にXのAに対する給付が無償で第三者の利益になったことを理由に、Xのほうが保護されて良いのか。さらに、Yの利益取得という行為に違法性があるわけでもなく、むしろAとの合意という法律上の原因がある。以上からすると、XとYを比較した場合、Yの利益取得が無償であったとしても、Xの転用物訴権の肯定は、Xに対する過度な保護といわざるを得ないであろう。したがって、公平説に立ったとしても、転用物訴権は否定されるべきという結論になる。関連問題Xは、父親から相続した広大な土地甲とその上に建てられた建物乙(甲と乙を合わせて、以下、「本件不動産」という)を所有していたが、本件不動産は郊外にあるため、長い間放置したままであった。ところが、Xは、近時本件不動産に住むようと考え、本件不動産の修理・改装を始めた。イノシシの庭を荒らすため、本件不動産と隣人Yが所有する不動産の間には、Xの父とYの2人で建てた見事な塀があったが、Y所有の塀との間は一部朽ちていることは明らかだった。Xは、維持・保存のためその塀を塗装したが、長年住んでいなかったために、Yとの境界がわからず、Yの塀まで塗装してしまった。Yの塀の塗装費用は、ペンキ・労務を合わせて30万円であった。以上の場合において、XはYに対して塗装費用相当額30万円を請求することができるか。Yが自己所有部分の塀を塗装する予定があった場合とそうでない場合とに区別したうえで、Yからの反論に留意し、理由を付して論じなさい(裁判例の分析)。参考文献松岡久和・百選Ⅰ 150頁 / 加藤雅信・百選Ⅱ(第6版)(2009)148頁 / 田中豊・最高裁判例平成7年度(下)900頁 / 潮見佳男「基本講義債権各論Ⅰ契約法・事務管理・不当利得(第4版)新世社(2022)」332頁・371頁・383頁(油給第一)
(1) 製紙会社Aの従業員Bは、Aの工場から市場価格500万円の製紙原料を窃取し、翌日に原料を特殊物品の販売業者Cに200万円で売却した。その1ヶ月後に、Cは製紙原料をDに500万円で売却し、Dはこれを利用して自分の材料も加えて紙製品を製造した(製品の時価は、1500万円)。Aは、Bに対して500万円の不当利得返還請求ができるか。さらに、Aは、善意・無過失のCに対して製紙原料の市場価格500万円を不当利得として返還請求できるか。Cが製紙原料をBの所有物と考えていたことに、善意だが過失があったときはどうか。(2) AはDに対して500万円の不当利得返還請求ができるか。(3) 小問(1)で、CのDへの売却代金が700万円だった場合に、AはCに対して700万円の返還請求ができるか。参考判例① 大判昭和12・7・3民集16巻1089頁② 最判昭和26・11・27民集5巻13号775頁③ 最判平成12・6・27民集54巻5号1737頁④ 最判平成7・12・19民録24輯2367頁[解 説]1 AのBに対する請求本問では、Aの動産(製紙原料)はBに窃取されている。だから、Cが動産をDに転売していなければ、Aは窃取から2年間はCに対して現物返還の請求が可能だった(民法193条)。その結果、最初はAのBに対する不法行為に基づく損害賠償を肯定していたが (大判明治43・6・9刑録16巻1125頁(注:後) 後に判例変更して、Cに対して現物返還の請求は認められるには「損害」はなく、Bの不法行為は成立しないとしている(大判昭和13・7・11判決全集6輯10号6頁[原審])。大判大正15・5・28民集5巻6号(土地))。そうすると、AのBに損害賠re償請求の根拠を認めるか、③XはAに対して報酬債権を有するがため、Yに対して不当利得返還請求をしないのが契約の原則であるが、Aが無資力のため報酬債権が無価値であることは、その限度においてYの利得はXの犠牲および負担において生じたものであることを考慮すると、甲の修理費用はAが負担するという特約がA・Y間にあったとしても、Xは、Aに対する報酬債権が無価値である限度において、Yの利得を返還請求できるものと解する、と判示して、原判決を破棄し差し戻した。以上からすると、参考判例①は、Yの利益獲得につき有償・無償の区別を前提とせず (すなわち有償性を捨象せず)、Xの損失とYの利得との間には直接の因果関係があることを前提に(前述①)、Xの報酬債権が無価値である限度において、XのYに対する転用物訴権を肯定したとみえる(前述②)。2 AのCに対する不当利得返還請求本問では、CはBに動産を転売しているから、AのCに対する動産の回復請求は不可能となっている。さらに、CがBに動産の占有を善意に取得したことによる損害のてん補の問題(709条)も成立しない。ただし、参考判例①は、Aの従業員BがAのブドウを窃取して、同様の物品の販売業者Cに転売し、CがDに転売しDが費消したというケースである。ただし、その前提に、まずBがそれらの内、Cの返還義務の範囲である。すなわち、BにはDへの動産の売却で500万円を利得しているので、Bに500万円200円を支払って、だから (動産を占有管理権があれば、民法193条で確定的に所有権を取得したはずの) 善意・無過失なければ、民法192条で確定的に所有権を取得したはずの) 善意・無過失そうすると、類型論の学説は、AのCに対する物権的請求に対して、CはBC間の積極的信頼を優先できないはずだから、占有離脱の物権が適当な解決には至らない。さらに、類型論はXは有効な取引行為の占有者(後述若しくは公の信憑において、又はYから甲建物の鍵を預かる購入者から、善意で買い受けたときに、占有者は有効に成立した社会の価値判断が可能であると規定している。だから、占有離脱の可能性は、占有者の優先、公の信憑、同様の類型を異にするから動産を買い受けた場合に限られる。そうすると、両者の利益が競合したら、盗人から盗品を買い受けたのは、たとえ善意・無過失でも、B(買主)に支払った代金の対価弁償(代金弁償)の請求はできないというのである。ただし、以上はAのCに対する財産権の主張が可能な場合であり、他方で、善意・無過失のCのDに転売したとき、つまり、AがCに対して不当利得返還請求するときは、CはAに対して対価利益が可能だと考える余地もある。そうだとすると、所有者の占有離脱の請求が可能だと考える余地もあり、不当利得返還請求のときも、動産が占有離脱物でなければ民法192条によって確定的に所有権を取得したはずの善意・無過失の第三者Cは、対価利益という形での安全が拡大されたことになる。3 不当利得の類型論不当利得の類型は、不当利得以外の法制度が挫折した場合、たとえば、本問のように、動産はDの下で加工され新奇になっているから、所有権に基づく動産の回復請求は不能で、しかも、Cが善意・無過失であれば不法行為損害賠償請求権も成立しないときに、所有権の保護を補完するのが不当利得だという考え方である。そこで、類型論は、個々の不当利得返還請求の性質を、挫折した法制度、つまり、具体的な法律上の原因の欠如の類型に即して具体化する。だから、類型論は、不当利得返還請求の当事者の利益を、不当利得以外の法制度との整合的・目的に応える一種の補助線であり、多論である。その結果、類型論は、価値の移転・契約の拘束力などによって価値の移転、債権の移転などの一方の給付の類型、費用・政策された他方の利益、以上について一体とみなし、広義の所有権を補完する制度(他人の財産から受けた利益の返還、他人の労働の対価を避けて利得を回避させ財産としてのものを有する者(479条)に対する利得請求権を認め返還請求権、知的財産権の侵害など)、債務管理を補完する「支出不当利得」(他人の債務の弁済による「求償利得」他人の物への費用支出による「費用利得」)に、不当利得を区別している(さらに、三当事者ではなく、3人以上の間で利用が移動する場合を、「対象三者関係」として区別している)。そこから、本問でのAのCに対する動産権の回復請求は、侵害利得であり、AのCに対する動産の回復請求を補完するものだと考える。4 AのCに対する不当利得返還請求本問は異なり、Bが動産を加工せず、動産が現物でDの占有下にあったときは、AはDに対して回復請求が可能だが、善意・無過失のBからCに支払った代金500万円の対価弁償をAに対して請求できる(194条)。本問では、DはBから500万円の動産を加工して1500万円の新物品、つまり、「新物」にしているから、動産の所有権を取得している(246条)。ただし、加工によって損失を受けた者はDは、不当利得の規定(703条・704条)に従い、所有権を取得した者(D)に対して償還請求が可能である(248条)。もっとも、本問では、Aの善意・無過失のCのDへの市場価格500万円を不当利得として返還請求できるかは、CがDに転売した500万円の不当利得をAに代位行使として返還できるはずである。だから、本問では、結論として、AのDに対する不当利得返還請求には意味がなく、それでは、後でCがDに500万円で動産を売却していたときは、Aは動産の市場価格(500万円) - 代償弁償(300万円) = 差額(200万円)をDに対して現物返還の請求ができるのか。AのDに対する差額のDに対して現物返還の場合と同様だと考えると、AはDに500万円の請求が可能だと考えること。しかし、参考判例③は、民法194条の回復請求権の存在を前提として成立し、回復請求に代わる不当利得返還請求も同様であるとして、動産の占有権によって取得したDに対する回復請求のみならず、差額の不当利得返還請求を斥けて差額を支持した。AのCを総合すると、ここでは、現物返還が不合理、既存の所有者がAに不当利得返還請求するときは、善意・無過失の占有者からの取引の安全を大きく害することになる。加えて、判例(参考判例③)は、BがAから窃取した自動登録機に他人の動産を販売する商人Cに売却し、無償のDに機械を転売し、Dがこれを使用して印刷物の複製、および、CのDから古物商からAへの返還でDが機械を使用していた間の使用利益(賃料相当)を不当利得返還請求したケースで、Dは機械をAに返還する必要があるが、使用利益の返還の必要はないと判示している。もちろん、善意の占有者Dは、Aから訴えを提起されても係属する訴訟は、費消の使用利益の返還の必要はない(189条1項)。ここでは、動産は占有離脱物だが、民法192条ではなく民法194条のDに対する代価賠償はDは、民法189条以下の規定は、占有離脱物を前提によって取得した善意の第三者に対して、果実・使用利益の返還義務を免除し(189条1項)、損害賠償義務も負わない(191条)という形で、所有権取得には至らないが、物の使用利益の安定の要請が第二者の場合に限って、第三者が占有者Dから動産の返還請求を訴えたときは、訴訟係属後に与えられたものの占有者からみされる(189条2項)。だから、民法189条2項の規定を文言どおり適用すれば、Dは訴訟係属後の使用利益の返還の必要があるが、ところが、参考判例③は、①被害者はAに回復請求する、回復をためらうかどうか。の選択肢があるが、Aの選択によって使用利益の返還義務の有無が決まるのは、民法194条の目的である善意の占有者の保護と占有物との間の投下資本を安定させる、代金弁償にはほぼ合致しないこととの均衡上、占有者の利益、両者の利益を比較衡量して、善意・無過失の占有離脱物の転得者でも、使用利益の返還を認めている。だから、CがDに300万円で動産を売却していたときに、AのCに対する200万円の侵害利得の請求を認めるか否かは、AのCに対する請求権のあり方(対価利益)の問題として、判じ・学説の方向性にかかっていると考えるべきであろう。5 CのDへの利益小問(3)では、CはDに対して動産の時価500万円と高額な700万円で動産を売却している。ただし、Cに故意・過失があっても、Aの不法行為による損害賠償は、Aの損害のみの填補が目的だから、賠償額は時価500万円である。Aの不法行為返還請求も、侵害利得はCのDへの転売でもAの損失の補填が目的だから、Aの損失の補填の範囲である500万円でも、侵害利得(不当利得)が効果はAに最終的に帰属した客観的価値(市場価値)の客観性である。以上の基礎となると、市場価値500万円以上の200万円は、侵害利得ではなく投機的に得た有利の機会にすぎなく、このてん補・予防を治療するという評価できる。ただし、Cが故意にAの動産を処分して高額の売却益を取得したときは、不法行為の予防的効果を認めることが公平に合致するとする考え方もある。その結果、判例は、不法行為とは別に、不当利得請求権をAは行使できると考える。その結果、判例はAは行使できる物権の追及権から派生する、物の所有権に付着する人格権から、他人に物を管理させる意思(697条1項「他人のために」には事務を管理する意思)、不当利得の事務についてAの事務を事務管理(不法行為・666条)を前提に、事務管理の事務を事務管理するという意思(参考判例①)。ただし、学説は事務管理を支持するものの②は存在(参考判例①)、ただし、学説は事務管理を支持する。ものは必ずしも多くはない。他方で、不法行為の効果も、損害のてん補のはずである。しかし、故意の不法行為では、損害額を慰謝料額に評価して、加害者の利益を相殺すると考えるという説が、特に、侵害はあっても発生が困難で必ずしも賠償が確保されるとは限らない知的財産権の分野で有力に主張されている。現に、たとえば、特許法102条2項は、特許権者の損害額を侵害・過失による侵害者の利益の額と推定している。ただし、以上の知的財産権の侵害での損害額を、不法行為の分野にも一般化できるかは問題である。もっとも、この2つの具体的な処分は客観的処分(相当額)と推定されるべきであろう。この理は処分された物の一般的な客観的な処分ないし代替的な特定物の処分の客観的な処分の場合には特に妥当する。つまり、処分益は客観的価値の算定の出発点であり、損失者が処分価格が客観的価値より安価と考えるときは損失者が、利得者が処分価格が客観的価値より高価と考えるときは利得者が、客観的価値の証明責任を負担することになる。関連問題Aが死亡し、Aの子B・Cが2分の1ずつの遺産を相続した。AにはDに対して200万円の現金債権があったが、BはDから200万円全額の弁済を受けた。CはDに対して100万円の弁済を請求できるか。さらに、CがDに請求せず、Bに対して100万円を不当利得として返還請求することは可能か (最判平成17・9・11判時1911号97頁を参照)。参考文献好美清光・判例387号 (1979) 22頁 / 沖野都・民数219号(1998) 58頁 / 窪田充見「新注釈民法(16)有斐閣(2017)」126頁・195頁(藤原正則)(藤原正則)
(1) AはBに対して100万円の債権があったが、債権の額を勘違いして、200万円をBに弁済した。その後、Bはこの200万円を受け取って費消する途上で倒産に襲われ、全財産をすべて清算された。翌日Aは自分の勘違いに気づいた。AはBに対して100万円の返還を請求できるか。同様に、AはBに100万円の債務があったが、BがAに対して脅迫的な言辞を弄して弁済を強要し、慌てたAが債権額を勘違いしてBに200万円を弁済した。BはAの勘違いに気づいていたがAから弁済受領した後、以上と同様の事件が発生したとき、AはBに何を請求できるのか。(2) Aは直接Bから地大工(江戸時代の画家)の真筆といわれて、甲絵画を代金2000万円で購入した。契約時には、A・Bともに甲絵画は大量の贋作が出回っていたため、Aは代金を支払い、引渡しを受けた。ところが、Aが後に鑑定を依頼したところ、甲絵画はよくできた贋作で時価100万円程度のものと判明した。AはBに代金2000万円の返還を請求できるか。BはAの請求に対してどのような主張が可能か。(3) (2)で、Aが甲絵画を鑑定に出す前に、Aの隣家から出火し甲絵画は焼失してしまった。その後に、甲絵画が時価100万円程度の贋作だと判明したときは、AはBに対して代金2000万円の返還を請求できるか。(4) (2)で、Aが売買契約時に意思無能力だったときは、どう考えるべきか。(5) 甲絵画は著名な(平安時代の画家)の真筆で時価2000万円だったが、盗賊BがAに時価100万円程度のまがい物だと説明してだまし、Aが購入した後に、(2)と同様の事情で甲絵画が焼失したときは、A・Bは互いに何を請求できるか。参考判例① 最判昭和28・6・16民集7巻6号629頁② 最判昭和47・9・7民集26巻7号1327頁[解 説]1 非債弁済の不当利得小問(1)では、Bが弁済受領した200万円のうち100万円はAのBに対する債務の弁済だが、残りの100万円に関しては債務は存在しなかった。だから、Bには100万円を保有する法律上の原因 (債権) がない。その結果、BはAに対して100万円を「弁済者が弁済しない債務の弁済」の不当利得として返還する義務を負う。しかし、BはAから受領した金銭を費消されており、100万円の返還義務を負えば、債務の存在を信じて弁済受領した善意のBは100万円の損害を被ることになる。しかも、100万円の弁済者の原資は、Aの債務の誤認である。したがって、Bは利得の消滅を主張して 〔利得 (100万円) - 利得消滅 (100万円)〕 + 現存利益 (0円) 返還義務を免れることができる (703条)。これが、不当利得の一般原則である民法703条の善意の利得者の返還義務を現存利得とした制度趣旨の由来である。反対に、BがAの100万円の非債弁済に悪意なら、現存利得への返還義務の縮減は主張できないのは当然として、利得 (100万円) の返還に加えて、弁済受領時からの利息の支払義務を負う (704条後段)。悪意の非債弁済の受益者は、一種の不法行為と考えられていたからである。不当利得の一般原則の民法703条の規定は、非債弁済の不当利得のルールに由来する。かつては、非債弁済の不当利得の返還請求の要件として、①債務の不存在と②債務の存在に関する弁済者の錯誤の証明が要求されていた。しかし、錯誤の証明は、必ずしも容易ではない。そこで、債務の不存在だけを非債弁済の不当利得返還請求権の要件とした上で、弁済者の錯誤の証明責任を転換して、弁済受領者が弁済者に錯誤がなかったことを証明すべきだとされた(705条「債務の存在しないことを知っていたとき」)。同時に、弁済の錯誤に善意の弁済受領者の弁済を保護するという役割を保障するために、弁済受領者の返還義務の範囲を現存利得とした。そのうえで、「債務の不存在」を一般化して「法律上の原因の欠如」とした結果、民法703条のルールが成立した。だから、債務の弁済の場面を不当利得の「返還義務」の源泉を、弁済者の不当利得以外のすべての不当利得の事例で類推的に一般化することまでできず、「利得消滅の抗弁」の成否は個々の不当利得の事例で検討される必要がある。2 A・B間の売買契約の錯誤の規律小問(2)では、A・B間の売買契約に関しては、錯誤による取消し (95条1項)、または、移転した目的物の品質への不適合ゆえに契約の解除 (564条・542条)を、AはBに対して主張できる。たしかに、甲絵画の真筆の品質の豊かさは目的物の性状であり、それがAの重要な買い手とみなせる「動機の錯誤」にすぎない可能性もある。しかし、Aの動機は「法律行為の目的及び取引上において重要なものである」(95条1項)。しかも、甲絵画が大量の贋作であることは画家Aの「法律行為の基礎」としており(同項2号)、A・Bともにそのことを前提としていたから、法律行為の基礎として表示されている(同条1項2号)。だから、AはBに対して甲絵画の売買契約の錯誤による取消しを主張できる。さらに、A・B間の売買契約で合意したのは、大量の贋作である甲絵画の制作であり、したがって、甲絵画が贋作なら、Aは売買契約を解除することができる (564条・542条)。3 契約解除の規律小問(3)で、AがBに対して錯誤による取消しを主張すれば、A・B間の契約は遡及的に無効となる (121条)。その結果、AはBに対して売買代金2000万円の不当利得の返還を、BはAに対して甲絵画の所有権または不当利得に基づく返還を請求できる。さらに、反対の同時履行の関係は、小問(2)での不当利得が無効・取消しによる原状回復の義務 (後述) の事例であり、その回復には契約の規定が準用されるべきだとされている。つまり、「法律上の原因」の欠如 (703条) に関連して、不当利得返還請求の責任を個別的・多元的に考えるのが類型論の立場である。従来の通説だった法律行為は、不当利得の射程を公平に決め、一元的に不当利得を解決していた。しかし、公平という概念はそれ自体で内容が不明であり、問題解決の方針にはならない。だから、不当利得の問題の解決を個別の方針を、個別の不当利得の事実関係に即して明らかにした上で、類型論に対して、類型論は無効論としての自己の優位性を見出している(拙稿に対しては、→本書巻末【参照】)。その結果、BはAの2000万円の不当利得の返還義務に対して、甲絵画の返還との同時履行(533条の類推)を主張できると解されている。 (参考判例①②を参照)。AがBとの契約を解除すれば、同じく同時履行の関係を目的とする解除に関する民法546条は民法533条(同時履行の抗弁権)を準用している(ただし、本稿での結論とは異なり、詐欺・強迫による取消しの場合には、詐欺・強迫者、他方から同時履行の関係の主張を排斥すべきだと解する学説もある)。さらに、AはBに対して2000万円に関して、弁済時からの法定利息 (404条)を、BはAに対して甲絵画の滅失・使用利益返還義務(原状の返還義務を負うから、使用利益も当然に返還義務を負うと解されている)が可能かに関しては、学説は、双務契約の清算では、民法575条が類推されて、相互に返還義務を負わないとする考え方がある。しかし、他方で、契約が無効・取消しとなったときは、給付と反対給付の間の実質的な等価性は期待できず、しかも、使用利益に関しては、物の使用による損耗に価値低下する場面もあるから、代金と元本と給付物を現状で返還するだけで足りず、Aは甲絵画の使用利益を、Bは金銭からの法定利息の返還義務を負うと解する説もある。他方で、契約の解除の効果に関する規定は、「相手方を原状に復させる義務を負う」とし (545条1項)、加えて、利息、使用利益・果実の返還義務を規定するが (同条2項・3項)、無効・取消しの効果に関する民法121条の2第1項は、「原状回復義務」を負うとするにとどめ、使用利益・果実に関しては規定を置いていない。ただし、判例は、目的物の滅失・使用利益は、売主は代金の利息を不当利得として返還する義務があると解するべきであろう。詐欺者、強迫者の保護を認めるべきではないという考え方もありうるが、詐欺・強迫による被害者は不法行為による損害賠償請求権も重ねて行使できる。4 双務契約の給付された目的物が滅失した場合ところで、小問(3)では、甲絵画はA・Bの帰責事由 (故意・過失) なく滅失している。結果として、AはBに対して甲絵画の時価相当額100万円の価値償還義務を負うことになる。小問(3)のように、Aの返還に応じるべき相手方が反対給付をいったんは取得したがその後に、相手方の反対給付が滅失するために、自己の反対給出の返還に応じると約束して、相互に給付を交換し、給付の清算をしたとはいえない。この場合AとBとの関係について、民法703条を文言どおり適用すれば、甲絵画は滅失して、Aの現存利益は存在しないから、Bの代金返還に応じることになる。しかし、甲絵画をBからAに現に引き渡せるわけでもなくなった以上、Bから甲絵画の返還の危険を負担させるのは明らかに不公平である。そこで、従来から甲絵画の不当利得は本来非現物債権の不当利得に当たる民法703条を適用せず、原状回復として、甲絵画の価額賠償義務を負う(121条の2第1項は「原状回復義務」)と規定する。目的物の返還義務が不能となったときは、Aは目的物(甲絵画)の評価価値賠償義務を負うと解されている。その結果、小問(3)では、AはBに対して甲絵画の時価100万円の価値賠償義務を、BはAに対して代金2000万円の不当利得返還義務を負い、そのうえで相互の返還請求が同時履行の関係にあるから、差額分を返還せよとAはBから請求され、Bが1900万円の不当利得返還義務を負うこととなる。5 意思無能力・取消権の保護目的小問(4)では、甲絵画の売買契約をAはBと締結したが、Aは意思無能力者であるため、法律行為は無効である(3条の2)。だから、Aの意思能力を回復した後にあるいはAの法定代理人が後見されて、A・B間の売買契約時のAの意思無能力を証明すれば、AはBに対して2000万円の代金返還請求できる。他方で、甲絵画はAのもとで滅失しているから、Aの現存利益は存在しない。しかし、民法121条の2第1項を適用すれば、Aは100万円の価値賠償義務を負うことになる。しかし、それでは、意思無能力、つまり、財産上の決定を保護することのできないはずのAに、目的物の滅失の危険を負担させることになり不当であろう。そこで、同条3項は、意思無能力者、制限行為能力者は、現存利益の返還義務を負うと規定している。ただし、小問(4)では、A・Bともに帰責性のない偶然の滅失(隣家からの延焼)による目的物の滅失をいっている。だから、目的物の滅失は、Aの意思無能力とは無関係であり、意思無能力による判断を歪めた当事者の選択とは、Aの利益の回復を認めることとは解する余地もないのではないか。しかし、たとえ、Aは意思無能力による判断能力の欠如で、甲絵画を損傷したときも、Aは損害賠償義務を負わない。すると、偶発的な滅失の危険も、取引相手方が負担するのが、民法3条の2の保護目的にかなうと考えるべきであろう。だから、結論として、小問(4)では、Aは甲絵画の価値賠償義務を負担せず、Bに対して2000万円の不当利得返還請求が可能と解すべきであろう。6 不当利得法以外のルールの適用小問(5)では、民法121条の2第1項を適用すると、Aは2000万円の価額賠償義務を、Bは代金100万円の不当利得返還義務を負うことになる。しかし、この結果は、明らかに不公平である。もちろん、ここで錯誤無効の修正を不当利得の枠内で守ることも不可能ではない。たとえば、民法703条の趣旨の拡張である善意の受益者の保護(現存利益の返還義務)を、A・B間の売買契約の錯誤の取消しにより不当利得であることにBが善意であることを理由に、AがBに100万円で甲絵画を自己の所有物として保存できると信じていたことに対して、Aの返還義務をAの給付100万円に制限し、それ以上の返還義務〔1900万円〕を利得消滅したと解するなどの考え方もある。Bの故意に対して考えられる。そうすると、出発点としては、民法121条の2第1項が適用され、Aは2000万円の価値賠償義務を、Bは100万円の不当利得返還義務を負うが、AはBの返還義務に、ないしは、契約の締結上の過失を根拠にして、1900万円の損害賠償請求が可能であると考えるのが妥当であろう。結論として、Aは100万円の限度で目的物の滅失の危険を負担することになる。もちろん、上記の非債弁済の目的受領の目的物の滅失の危険の自己の責任の原則への回帰は、契約が無効・取消しとなった場合の契約の精算も、可能な限り不当利得の規定の類型によって行おうという方向性と一環である。それに対して、契約解除は、契約の締結上の過失による損害賠償による調整は、不当利得を財貨移転の清算のニュートラルなルールと位置づけたうえで、不当利得以外の規定の適用によって問題を解決しようという方向性である。関連問題(1) 本問の小問(1)で、Bが不法行為または故意によって、時価100万円の贋作を地大工の真筆であると信じさせて高額な契約を締結したとき、小問(2)で、BがAに代金2000万円の返還請求に対して、甲絵画の返還との同時履行を主張できるか。小問(3)では、Bは100万円の価値賠償債務をAに対して負うべきか。小問(2)で、Bが自己に帰責事由なくAの隣家からの火災で甲絵画が滅失したとき、Aが自己の不注意で、甲絵画の鑑定を依頼したときに、BはAに対して100万円の価値賠償の請求が可能か。
Aが長期の海外旅行に出かけている最中に、台風のためAの自宅の屋根瓦が一部破損してしまった。隣人のBは、Aから「海外旅行の間によろしく頼みます」と聞かされていたので、屋根瓦が破損したのを善意でAの留守中に専門業者に連絡して修理を依頼し、その費用を立て替えて支払った。ところが、帰国して事情を知ったAが「この家は取り壊して建て替えるつもりだったのだから余計なことをしてくれなくてもよかったのに」などというので、Bは腹を立て、修理代金を支払ってもらいたいと思うようになった。Bは、Aのどのような請求をすることができるか。また、Aの立場からはどうか。[解 説]1 合意に基づかない 〈勝手な〉 他人の事務の管理民法697条以下では、他人のために事務の管理を始めた場合には、その「他人」(以下、「本人」という)の利益や意思を尊重しなければならないとされ、(697条)、その代わり自分で費用を償還できる(702条)等の法律効果を認めている。これを「事務管理」である。ただしこれは、他人の事務を管理する義務がない場合を前提としている(697条1項)。本問のようにAから「よろしく頼む」といわれてBが屋根瓦の修理を頼んでおくと、それが委任契約に基づく義務の履行として評価されるのであれば、これは事務管理の問題とならない。もっとも、本問のようにAとBとの間に明確な委任契約に基づく義務の履行としてBがAに修理代金を請求しうる関係については、委任に関する民法648条以下の規定によって処理される。また、AとBとの間に契約関係がなくとも、たとえばAが成年被後見人であるような場合にはBがAの財産を維持すべき義務があるので、やはり事務管理の問題とならない。ところで、本問のようにAの意思が明確ではない場合には、Aの意思を確認するのが可能である。しかし、Aが海外旅行中で連絡がとれないような「急迫」の事情がある場合には、BはAの意思を確認できなくても、とりあえずはAの利益を図るために屋根の修理をすることも許される。ただし、Aが帰国したときに「自分は家を取り壊す予定であったから、屋根の修理は頼んでいない」とBが善意で管理していても言われるかもしれない。法律行為ではないから、BがAの意思に反して管理しても有効である。法律行為である委任契約の場合と対比してみると面白い。事務管理は、契約とは異なり、いわゆる法律行為ではない。法律行為であると未成年者取消の適用も射程に入るが、事務管理は事実行為であることから、事務管理の当事者には、当事者の権利や義務は法律の規定(697条以下)に基づいて生じるのであり、当事者の意思に基づくわけではない。もっとも、たとえば、他人のために事務を管理した者は本人から費用を償還請求する権利がある(702条)。事務管理も義務を管理したBに費用償還請求を認める点で委任契約と共通する。ただし、委任契約と異なって、その他人のためにする意思がなくてもよいというのが通説である。しかし、意思に基づいて事務管理が生じた場合にAからBへの費用償還が生じる場合であっても、Bにとって思わぬ利益が生じるわけではない。むしろ、事務管理の時にBの立て替えた費用が客観的な利益を超えていたとしても、民法702条によって費用を償還請求できるにすぎない。求する権利が発生するのであるから、事務管理の際に費用を請求しようという意思があったか否かは(法律的には)重要ではない。これに対して裁判所は、客観的にも、当事者の意思に基づいて権利や義務を生じさせる制度であるので、事務管理とは異なるのである。本問では、当初はBはAに費用の負担を求めるつもりはなかった。しかし、これは重要ではない。BがAに対して債務を免除する旨の意思表示をした(519条)というような事情でもない限り、BはAに対して修理代金を求めることができるのである。2 事務管理の成立要件事務管理は上記のような制度なので、これは、ⓐ他人の事務を、ⓑ他人のために行うことが前提となり、また、ⓒ管理したように、ⓓ事務管理をすべき義務なく、さらに民法700条ただし書を参考に、ⓔ本人の意思や利益に明らかに反してはならないとされている。これが事務管理の成立要件である。このうちⓒについては前述したので、残りの要件について検討しよう。(1) 事務の他人性本問の場合には、BはAの家の屋根瓦を修理したのであるから、これは元来Aがするべき事務であることは客観的にも明らかである。他方、Bが自分の事務をしたときには(自分の家の修理など)、仮にBが他人の家であると誤信していたとしても、費用の請求などができないことは当然である。さらに、事務それ自体としては他人の事務か自分の事務か客観的には明らかではないときには(たとえば電線の修繕など)、(後で述べるとおり可能であるが)他人のためにする意思があったのかを事務管理の成立を認めてもよいであろう。なお、本問の場合には破損した屋根瓦の修繕はAの事務である。危険を避けるという意味もあって、この危険回避の義務はBにあるのではなく、Aにあるのであって、Bの事務でもあるといえる。しかし、だからといってAのための事務でなくなるわけではない。(2) 事務管理意思客観的には他人の事務であっても、自分の事務と誤信して管理を行った場合には「他人のため」とはいえないので事務管理は成立しない。もっとも、この場合でも、管理者が費用を支出したために本人が利益を得ているのであれば不当利得(703条以下)となる余地はありうる。ところで、前述したように、本問の場合に破損した屋根瓦がBの家の隣に建っていることからするとBという隣人であったので、この限りでBは自分のために修繕したともいえる。しかし、Bが「Aのため」の意思とAのための結果という側面を重視する。(3) 本人の意思や利益に明らかに反しないこと事務管理に当たっては本人の利益や意思を尊重すべきであり(697条)、また本人の意思や利益に反することが明らかであるときは事務管理を継続してはならない(700条ただし書)。したがって、仮にBがAの意思を無視し、本人の意思や利益に反することが明らかであるならばそもそも事務管理は成立しないと解釈されている。本問の場合、AがBに見積もりを依頼しておきながら予算がなかったので、屋根瓦の修理など「余計なこと」であったかもしれない。しかし、それが客観的に明らかであったのでなければ事務管理は成立する。3 事務管理の効果事務管理の効果については民法697条以下に定められているが、本問との関係では特に民法702条が重要である。(1) 費用償還請求権民法702条1項によれば、管理者は、本人のために有益な費用を支出したときには費用の償還を求めることができる。Bは、Aに費用の償還を求めることができる。BがCに修理代金を支払ったのなら、それを管理者として償還請求することを認められる。ただし、Aが取り壊す予定であったことをBは「有益」な費用であることを理由に償還請求できるか、この点については後述した。(2) 代弁済請求権またBがCに修理代金を未払のままであるなら、民法702条2項に基づいて、Bに代わって修理代金をCに支払うべきことを請求することができる。ただし、事務管理はAとBとの「内部」の問題なので、Cに直接請求することができるかといえば、それはできないと解されている(通説)。BがAを代理する権限を有するわけではない(後述拙稿参照)。関連問題本問においてBがC大工に屋根瓦の修理を依頼する際に、「Aから頼まれて、Aの代理人としてお願いする」といって契約をした場合、さらに、また、Bが「自分はAである」として契約をした場合に、CがAに修理代金を請求することは認められるか。参考文献平田健治・平成262頁(米沢出版)
大学生のA (20歳) は、東南アジアを旅行し、その文化に興味を抱いた。そして、友人に誘われ、東南アジア諸国から衣類や雑貨を輸入して、それらを販売する店を開いた。その開店資金は、Aがアルバイトで貯めた金員を充てたが、その際、継続的に商品を仕入れるために、Aは、ある消費者金融の金銭を借り入れた。そして、Aの店は、開店以来、経営は順調であったが、円安により商品の仕入れのための経費がかさみ、手もとで使える資金繰りが苦しくなってきた。そこで、Aは、さらにBから金員を借り入れたが、融資から1年半を経過し、店を閉めることにした。Bから受けた融資を合わせ、合計350万円を請求されたAは、返済をすることができないため、父であるCに相談した。Cは、もともとAの開業には反対であったが、Aの将来を考え、AのBに対する借金を肩代わりすることにした。この事例を前提として、以下の小問の(1)および(2)に答えよ。(1) Aが、Bに対し、Cが自らの借金を肩代わりする旨を伝えたが、CとBに対して、「自らの子であるAが負った債務について、私が肩代わりします」と告げた。この場合に、Bは、Cに対して、350万円の支払を請求することができるか。(2) AとB間の金銭消費貸借契約における利息が、利息制限法に違反するものであった場合に、Cは、Bの支払請求に対して、利息制限法に違反する利息の支払を拒むことができるか。参考判例① 大判大正6・11・1民録 23輯 1715頁② 最判平成23・9・30 時報 2131号 57頁最判平成 24・6・29 時報 2160号 20頁解説1 債務引受の意義(1) 2017年民法改正後の債務引受債務引受とは、広く使われていた文字どおり、ある債務者の債務を他の者 (引受人) が引き受けることをいう。2017年改正民法は、債務引受について明文の規定がおかれていなかったことから、判例および学説は、早くからドイツ民法に倣って、債務引受を認めてきた。そして、債務引受には、3つの類型があると解されてきた。すなわち、①併存的債務引受 (重畳的債務引受)、および、②履行の引受である。まず、免責的債務引受とは、債務の同一性を変えることなく、従前の債務者から新しい債務者 (引受人) に移転することをいう。これは、債権譲渡に対応して、債務の移転を意味するものである。また、併存的債務引受とは、第三者 (引受人) が従前の債務関係に加入して新たに債務者となり、従前の債務者は債務を免れることなく、その債務と同一の内容の債務を引き受けるものである。そして、引受人に対しては、特定の債務を履行する義務を負わされる。これに対して、免責的債務引受は、引受人が債務者となって従前の債務者に代わり、債務の履行義務を負うため、契約によって定められた債務の履行を引き受けることを意味する (履行引受契約)。すなわち、併存的債務引受を「債務引受」、免責的債務引受を「債務の引受け」の役割として、それぞれ法律上の地位として認める。つまり、「債務の引受け」 (民法) の第1目第1節に「併存的」免責的債務引受」が置かれている。のみならず、免責的債務引受の規定である民法472条の4の許容性、併存的債務引受の推定規定である民法470条1項の文言も同様の機能を有する。それゆえ、民法における併存的債務引受は基本的にそうである。すなわち、債務者が「自己の債務を他人に弁済してもらう」のが免責的債務引受であり (474条1項)、免責的債務引受と同じく、債務者を特定させずに引受人が債務者と同一の内容の債務を負担し、債務者が自己の債務を免れるものである。もっとも、民法 472条1項の文言を読む限りにおいては、債務の移転(免責的債務引受)は否定されない。しかし、民法の制定過程からは、免責的債務引受が債務を特定承継するものではなく、引受人が新たに債務を負担するものであり(債務負担行為)、併存的債務引受による担保を組み合わせたものであることがうかがえるのである。(3) 民法改正の理解と評価2017年改正民法の理解と異なる民法の規律は、実務的には特に不都合はないと思われる。というのも、現実に生起する併存的債務引受を説明するだけであれば、それを債務の特定承継とするか、引受人による新たな債務負担行為に、債務者による原債務の負担を組み合わせたものとするかは、見方の問題とされるにすぎないからである。しかし、民法改正の趣旨に照らせば、次の3つの問題がある。第1に、沿革的かつ比較法的な観点からは、併存的債務引受を類型とし、免責的債務引受をその亜種とする法制は、特別のものといってよい。なお、沿革的には、ローマ法において「人的な担保」として否定されていた債務の移転(特定承継)を、まず「債権譲渡」で許容し、「債務引受」を「契約上の地位の移転」と段階的に承認してきた近代法に先行するものである。第2に、たとえ立法論において、免責的債務引受が債務の特定承継をもたらすものではなく、債務負担行為であると認めても、従来の社会においては、債務の移転(特定承継)が頻繁に行われていたことにも鑑みれば、免責的債務引受を、債務者であるため、債務の移転に伴う債務の移転など、その例も多い。そして、これらの場合にも、併存的債務引受を契機とし、引受人が、原債務者の負う債務と内容が同一の新たな債務を負担する、と説明する方が実態に合するのではないか。しかし、このような説明は、当事者の意思および経済社会の実態からはなれたものである。そうだとすれば、法理論上の説明はともかく、当事者の意思や取引の実態に即した法律構成をとることが望ましいと考える。2 小問2について一保証の否認本問では、まず、Cの借金を「肩代わり」することが何であるかで約束されている。そのため、その効力は当事者間における取り決めのみならず、債務者の意思も左右されない。しかし、Aに対して、BはCの借金を肩代わりするため、Aに代わりBに支払うことを、Bを第三者とする契約(337条1項)を成立させている。問題となるのは、まず、「肩代わり」が併存的債務引受であるか免責的債務引受であるか、あるいは、Cの借金をAに免責させることを意図した同時的・一体的な関係にある。この問題はA・C間の契約の内容によって左右されるが、明確であるかはともかく、Cの借金をAに免責するとの引受契約(第三者のためにする契約、472条3項)であろうか。その結果、「相対的」に債務引受は併存的債務引受であるといえるであろう。AとC間の契約は、Bの債務引受契約 (470条3項) に基づいてCがAの債務を肩代わりし、Bの債務引受契約によってCに対するAの債務を保証するものである。したがって、CがAの債務を保証し、Bに対してCが債務の弁済を求めることを承認した時 (470条3項)、その効力は生じることとなる。具体的には、BがCに対して350万円の支払を請求した時、Bの意思表示が認められ、併存的債務引受として、CのBに対する債務の弁済と引受人の求償の関係は、「連帯」関係になる (判例1条)。ところで、引受人と従前の債務者とが併存して債務を負担する併存的債務引受引受は、債権者からすれば、自己の債権のための責任財産の増加を意味する。それゆえ、併存的債務引受は、債務の人的担保として、保証債務者と債務者と同様の機能をする。しかも、併存的債務引受においては、債務者と引受人の債務は相互に独立したものであるため、保証債務におけるような付従性や補充性 (452条・453条)が認められない、より強力な担保であるといえよう。このように、併存的債務引受の機能は保証と類似するため、CがAの借金を「肩代わり」するという意思が、Aの債務を保証するものであるとも考えられる。しかし、保証契約は書面でしなければ効力を生じない (446条2項)ところ、本問では、書面が作成されていないため、A・C間における保証契約の成立を認定することはできない。半面、安易に併存的債務引受を認めると、保証人を保護するための形式的要件を潜脱することにもなりかねない。そこで、併存的債務引受のうち、保証を目的とするものについては、保証の規定の趣旨を妥当させるべきであるとの主張もされている。しかし、明文の規定なしに、形式的要件の具備 (446条2項) を準用できるかという問題がある。のみならず、併存的債務引受と保証とはその制度趣旨が類似するものの、法制度としては異なるものであり(たとえば、併存的債務引受における債務者を免責する免責的債務引受が認められるが、保証債務の場合には、債務者を免責し、保証債務を付保性によって消滅する)、そもそも保証の規定を併存的債務引受に準用ないし類推適用できるかは、なお慎重な検討を要し、今後の課題である。3 小問2について一債務者の有する抗弁併存的債務引受の引受人は、新たに債務を負担する者ではあるが、その債務は債務者が債権者に対して負う債務と同一内容である (470条1項)。それゆえ、引受人は、併存的債務引受の効力が生じた時に債務者が主張することができる抗弁を、債権者に対して主張することができる (471条1項)。その結果、本問のように、利息制限法による利息の軽減も、引受人であるCは、Bに対して主張することができよう。もっとも、債務者の有する抗弁のなかでも、取消権および解除権は、契約当事者のみが有するものであるため、引受人がこれを行使することはできない。しかし、債務者が債権者に対して取消権または解除権を有するときは、引受人は、その行使によって債務者が債務を免れるべき限度において、債務の履行を拒むことができる (471条2項) とされている。このほか、債務者が相殺権を有するときも、引受人は、相殺権そのものを主張することはできないが、債務者の負担部分の限度において、債務者に対して債務の履行を拒むことができる (470条・439条2項)。【関連問題】(1) P (当時5歳) は、未成年者であるQの運営する遊園地に概ねられて死亡した。その後、その示談交渉の場において、Qの父であるRは、Pの遺族であるSに対して、「どんな償いでもさせていただきます」と発言した。そこで、Sは、Qに対して損害賠償を請求するとともに、Rに対しても、Qの損害賠償債務を連帯して負担したとして、同額の支払を請求した。これに対して、Rは、「Qが未成年なので、本人に代わって親として交渉する気持ちであった」と述べ、「Qの損害賠償責任について連帯債務を負うつもりはない」と反論した。この場合に、SのRに対する損害賠償請求は認められるか。(2) 本問において、仮にRが利息制限法の適用利益を支払っていたため、Bに対して過払金返還請求権を有していたところ、Bが貸金業者を廃業してその有するすべての債権をDに譲渡した。Dは、Bの各債務について一切の引き受けない旨の契約を結んだ。この場合に、Aに対して、DがBの地位に基づいて、過払金返還請求をすることができるか。参考文献野澤正充 「債権譲渡ーセカンドステージ債権譲渡 (第3版)」 (日本評論社 2020) 231頁/ 「新「企業の組織再編」 実務の一歩上の地位の移転」 (有斐閣 1999年) (2014) 75頁/潮見・同491頁(野澤正充)
自動車用の精密部品を製造するA社は、自動車メーカーB社に本件モーター用の部品を納品していた。Aが2022年に締結した基本契約書には月間の総販売数量が定められていたが、これを目指すBは、この数量をAから購入する義務はないことが明記されていた。また、Bは希望する数量の20日前までに発注すること、Aはこれに応ずること、Bは納品から40日後に代金をAに支払うこととされていた。2025年4月1日、Aは、C銀行から融資を受けるに際し、同日から2025年9月30日までの間にAがBに対して取得する部品代金債権をC銀行のために譲渡したが、この段階ではBへの通知は行われなかった。Bは、2025年7月1日、Aの要請に応じ、返済期限を同年10月1日として800万円をAに貸し付けた(債権②)。2025年9月1日、AはCに対する残額の支払を怠り、融資契約時のCとの約定に従い、個人信用情報の利用停止を怠った。Cは同日、Aの代理人としてBに債権譲渡を通知し、BがAに対して負う代金債務も今後はCに弁済するよう求めた。2025年12月1日時点のAのBに対する代金債権は、7月5日発注・同月25日納入分300万円(債権③)、8月5日発注・同月25日納入分400万円(債権④)、9月5日発注・同月25日納入分200万円(債権⑤)である。ただし、9月5日に発注された部品には不適合があり、AがBの求めに応じて10月1日に代替品を納入したが、この際にBのスポーツカーの製造に遅れが生じ、それは、納車が遅れた顧客への対応として準備されたペナルティ100万円に相当するようAに求めている(債権⑥)。なお、債権発生日は共通である。Bは、Cからの請求に対し、債権譲渡・相殺のいずれの主張をして対抗することができるか。参考判例① 最判昭和50・12・8民集 29巻11号 1864頁② 最判平成24・5・28民集 66巻7号 3123頁解説1 「債権譲渡と相殺」における弁済期の先後債権譲渡は、譲渡人と譲受人との間の契約によって行われ、譲渡される債権の債務者のこれに関する与り知らない。しかし、債務者は、自身の与り知らない債権譲渡によって不利益を被るようなことがあってはならないはずである。そこで、債務者は、債権譲渡が対抗要件を備えた時点までに譲渡人に対して生じた事由があれば、これをもって譲受人に対抗することができるとされている(468条1項)。そして民法は、この一般的な抗弁の対抗に関する規定に加えて、相殺に関する規定を別に設けている。すなわち、債務者は、対抗要件具備時より前に譲渡人に対する債権を取得していれば、これを自働債権とし、譲渡された債権を受働債権とする相殺をもって譲受人に対抗することができる (469条1項)。民法 468条1項の規律は 2017年民法改正の前から存在していたが(旧468条2項参照)、民法 469条1項は新設の条文である。2017年民法改正の前は、「債務者が譲渡人に対して有する債権をもってする相殺を譲受人に対抗しうるのはどのような場合か」という「債権譲渡と相殺」の問題について、「差押えと相殺」の問題 (→本編32) と同様に学説の対立があった。つまり、判例は、債権譲渡の債務者が対抗要件具備された債権の債権者が請求してきた場合、これを待っていた債務者は、この債権とされた債権の弁済期の前後を問わず、債務者は相殺をもって譲受人に対抗しうるとする。これに対して判例は、債権譲渡の債務者が対抗要件より前に自働債権を取得されたというだけでは足りず、自働債権の弁済期が受働債権(譲渡された債権)の弁済期よりも先に到来することが必要であるとしていた。判例は、無制限説と同じ結論に至ったものがあったが (参考判例①)、これは譲渡人が譲渡人の吸収合併であるという特殊な事案についての判例法であって、その射程は広くないとの理解が一般的であった。2017年民法改正は、「差押えと相殺」に関して、従来の判例・無制限説 (45・6・24民集34巻6号947頁) の立場である無制限説を明文化するに至った (511条)。そして、これと合わせて2017年民法改正では、「債権譲渡と相殺」に関しても無制限説の立場を採用した。すなわち、民法469条1項は自働債権・受働債権の弁済期の先後にはふれず、対抗要件の具備時期を問題とするのみである。本問で自働債権となるべき債権②をBが取得したのは、Cへの譲渡が債権者対抗要件を備えた時(9月1日)より前の7月1日であり、これは民法469条1項の要件を満たす。そして、債権②の弁済期が10月1日であるのに対し、(代金債務の弁済期は納品40日後なので)債権③は9月3日、債権④は10月4日にそれぞれ弁済期が到来するが、両債権は自働債権と受働債権の弁済期の先後を問わないので、Bは債権③のみならず債権④をも受働債権として相殺権をこれに拠り、これをCに対抗することができる。なお、債務者が対抗要件を備えた9月1日との関係では、債権⑤はかかる発生日はまだ行われておらず、債権②と債権⑤の対立は生じていなかったものと考えられる。しかし、両者の対立はどのような場面で生じ、それは、債務者がCへの相殺の意思表示をする時点(10月以降の制度)で、債権②と債権⑤の両債権をともに対抗する時点である(前述のとおり、債権④は債権②との対立は生じないので、このような場面でBがこれを行うことによってCに対抗できる)。2 「債務者が履行を拒むことを明確にしたとき」の意義と機能次に、Bとしては、債権⑥(100万円)の損害賠も自働債権とし、これもCに対抗して譲渡を拒みたいところであろう。しかし、債権⑥は、9月25日に納入された部品の不具合に伴う損害賠償請求権 (564条・415条)であり、債権譲渡の債務者が対抗要件のとき(9月1日)より前に債権を有していたとはいいがたい。そうだとすると、民法469条1項による限り、このような相殺は認められないことになりそうである。しかし民法は、債務者が対抗要件具備時より後に譲渡人に対する債権を取得した場合であっても、その自働債権が対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じたものであれば、なおもこれを自働債権とする相殺をもって譲受人に対抗できる。を認識するものである (469条2項1号)。これは「差押えと相殺」に関する民法 511条2項と同じ規律である。そこで問題は、ここでいう「前の原因」とは何を指すのであろうか。2017年民法改正は民法 511条2項および 469条2項1号を設けるに当たって念頭に置かれていたのは、たとえば、委託を受けた保証人が求償権を行使して行う場合について弁済すべきとされた後に、この保証人が保証債務を履行し、主債務者に対して求償権を取得したというケースである。参考判例②は、(当然ではあるものの) 主債務者の債権に保証人が期待した事後求償権は債務者の財産で構成されており、これらの安定性は、このような相殺を差押え・債権譲渡の局面でも可能にするものであると説明されている。つまりここでは、差押え・譲渡より前に存在する保証契約が、自働債権である事後求償権の「前の原因」に当たると考えられているわけである。本稿では、本問の債権⑥の「前の原因」として考えられるものは何か。候補としては、2022年にAとBとの間で締結された基本契約がありうる。つまり、2025年9月5日に発注された部品の売買はこの基本契約に基づくものであり、⑥債権はこのときの性質について発生したと捉えるのである。仮にこのような理解が成り立つならば、債権⑥は、2025年9月1日の対抗要件具備時よりも「前の原因」である2022年の基本契約に基づいて生じた債権となり、これを自働債権とする相殺をCに対抗しうることになる。しかし、本問のように相殺するには難しい。まず、①基本契約を⑥の前提と捉えようにも、AとBとの間の基本契約では、当事者の間で、月々の発注がどのように行われるか、個々の発注に対する基本契約における様々なレギュレーションがあり、個々の発注にかかる債権・債務が基本契約から直接派生するとは限らない (→本巻36参照)。債権⑥においては受注生産の約束や品質が定められており、買主がその都度購入する義務を負わされているようであれば、発注・受注が基本契約そのものの義務の履行にすぎないとみて、これにかかる債権・債務の発生原因もこの基本契約に期することも可能であろう。しかし、本問の基本契約ではBに一定数量の購入義務は課せられておらず、Bは譲渡を認識したことも個別の売買契約 (個別契約) が結ばれ、代金債務をはじめとする債権・債務はこの個別契約に基づいて発生したと解するのがより自然であるように思われる。る。また、⑤の債権についても、売買目的物の契約不適合に基づく損害賠償請求権の「前の原因」としては売買契約があれば足りるのか、それとも目的物の引渡しや不適合の発見まで対抗要件具備時より前にある必要かの点に関して議論の余地があり、単純に「前の原因」を「前の原因」とみることができるのかの定めかではない。3 同一の契約に基づいて生じた債権間の相殺2でみたように、債権⑥については、民法 469条2号に基づく相殺をCに対抗することはできないと考えうる。しかし同項2号は、1号に該当しなくても、自働債権と受働債権が同一の契約など対価関係にある場合に、相殺の利益について譲受人に対抗することができるとしており、無制限説の利益要件が満たされたものである。債権発生の基礎となる契約がすでに締結されている場合で、この契約が自働債権の「前の原因」とされて1号の対象になる中で、2号の適用対象となるのは、自働債権・受働債権の発生原因となる契約の締結が対抗要件具備に後れる場合、すなわち将来債権譲渡の場合に限定される。この規定も2017年民法改正で新設されたものであるが、「差押えと相殺」については同様の規定は設けられておらず、「債権譲渡と相殺」に固有のルールとなっている。これは、将来債権譲渡の促進された後も、譲渡人とその間の取引関係を維持・継続するインセンティブを債務者に与えるため、「差押えと相殺」の規律よりもさらに広く債務者の相殺への期待を保護しようとしたものである。このケースでは自働債権と受働債権の発生原因もともに存在しており、両者が牽連関係が認められるため、債務者の相殺期待を保護することに値するといってよいといえる(従って、「差押えと相殺」の局面でもこのような相殺の期待を電話をもって相殺できるという判例がある)。本稿では、債権⑥と債権⑤はともに9月5日にかかる売買契約に基づいて生じたものであることができる。2で述べたのに対して、2022年に締結された基本契約は、個々の債務の発生・債権の発生原因とはいえないものの、Aの売買契約は、将来継続的取引が対抗要件具備された9月1日より前に締結されている。そして、民法469条2項2号により、Bは債権⑥と債権⑤との相殺をもってCに対抗し、債権⑤の残額100万円についてもCの請求を拒むことができると考える。ところで、売主に基づいて引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には、買主はその不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができるとされている (563条)。本問でも、9月25日に納入された部品の不具合があったものをBがB銀行として認めず、その分の返金をAに請求している。Bがこれを請求していれば、債権・債務の双方が対立関係になるため、この場合にBが代金の減額を請求できる。しかし、本問でBは代金減額請求権を行使せずに代替品の給付を請求しており、Aはこれに応じている。したがって、ここでBが求める請求はあくまで履行遅滞に基づく損害賠償 (564・415条)であり、代金債務は当初の全額で残ったままで損害賠償請求権との対立が生じるため、相殺の可否がやはり問題となるのである。4 関連する問題A・B間で継続的供給契約が締結されていた場合に、Cがこの契約の存在につき善意または重過失であれば、BはCの代金請求を拒むことができる (466条)。しかし、BがCに対して代金を弁済しない場合にも、Cは依然として善意だから相殺期待の経過により、Bは譲渡制限特約をCに主張し得なくなる (同条4項)。また、Aについて破産手続開始の決定があった場合にも、BはCから請求されれば代金の供給義務を負う (466条の3)。これらの場合において、BがAに対して取得し得た債権をもって相殺することができるかどうかについて、自動車の特殊な取得に関する特則が設けられている (469条3項、問題1参照)。本問の承諾をBからとったCへの債権譲渡をBが承諾していたらどうか。2017年改正民法 468条1項は、債務者が異議をとどめない承諾をした場合には、譲渡人に抗弁し得た事由があってもこれをもって譲受人に対抗することができなくなると規定していた。これによれば、Bの承諾が異議をとどめずになされると、BはCに対して相殺の主張もできないことになる。しかし異議をとどめない承諾の制度はかねてその妥当性が疑問視されていたところ、2017年改正民法はこれを廃止した (旧468条1項は削除され、旧468条2項の規律が1項に繰り上がった)。よって、Bは譲渡を承諾したとしても、相殺の抗弁を放棄する旨の意思表示をしない限り、Cに対する相殺の主張を封じられることはない (関連問題参照)。【関連問題】(1) 本問において、A・B間の売買基本契約には、AがBに対する代金債権を譲渡する際にはBの承諾を要する旨の条項があった。CはAから債権譲渡担保の設定を受けた際、この条項の存在を知っていた。Cは、2025年9月1日、Aの代理人としてBに債権譲渡を通知したが、Bはこれに対して譲渡を承諾しなかった。同年10月1日、BはAから債権②の弁済を受けた後、同年12月1日、BはAからの再度の要請に応じ、返済期限を同年12月1日として900万円をAに貸し付けた (債権⑦)。同年11月10日、BはCと協議の上、債権⑤・⑥をCに弁済するようにBに求めたが、期限内 (同年12月1日) ではBには応じないで、Cが改めて債権⑤・⑥・⑦を自分に弁済するよう求めたとき、Bは債務を相殺債権とする相殺をもってこれを拒むことができるか。(2) 本問において、2025年9月1日、CはAの代理人としてBに債権譲渡を通知するとともに、BがCに対して有していた抗弁を放棄するように求めた。Bは、債権譲渡がすでに押さえられたと誤解し、この求めに応じて、「AのBに対する債権がCに譲渡されたことを承諾し、以後Cに対して相殺など一切の抗弁を主張しません」と記した書面をCに交付した。その後、債権が未だ未済であることに気づいたBは、債権②と債権④・⑤・⑥との相殺をもってCに対抗することができるか。参考条文民法230条 (小粥太郎) / Before / After 274頁 (田中田) / 岩川 58頁(白石 大)
2020年4月1日、株式会社Aは、B銀行から5000万円を借り入れるに当たって、「2020年4月1日から2025年3月31日までの間に、Aが所有する甲建物の賃貸により取得する賃料債権を担保のためBに譲渡する」という内容の譲渡担保設定契約をBと結んだ。これについては同日付で債権譲渡登記が行われている。ところで、この時点で、甲建物(B名義のオフィスビル)の2・3階はC社、4・5階はD社がそれぞれ賃借していたが、これら2社に対して譲渡担保設定の旨の通知は行われず、C・Dは引き続き(C・Dとも月額200万円)をAに支払っていた。2021年5月1日、Aは新たにE社と甲建物の1階部分の賃貸借契約を締結し(賃料月額100万円)、同日Eは甲建物に入居した。2022年10月1日、Aは甲建物をF社に売却し、所有権移転登記も同日に行われた。C・D・Eはそれ以降はFに賃料を支払うようになったが、Dの賃借期間は2023年5月31日に満了し、同月7月1日、代わってG社がFと新たに賃貸借契約を締結して甲建物の4・5階部分に入居した(賃料月額150万円)。2024年4月1日、Aは2回目の手形不渡を出して事実上倒産したので、BはAに対し借りた5000万円を回収するため、C・D・E・Gに対して債権譲渡登記の登記事項証明書を交付して譲渡担保を承知し、以後Bに賃料を支払うよう求めた。これに対してC、E、Gが要求に応じ引き続いて賃料を支払う一方、C・D・E・GはBとFのいずれに賃料を支払うべきか。[参考判例](1) 最判平成11・1・29民集53巻1号151頁(2) 最判平成13・11・22民集55巻6号1056頁(3) 最判平成10・3・24民集52巻2号399頁[解説]1 集合債権譲渡担保の有効性近年、複数の債権(集合債権)をまとめて譲渡担保に供することによって、多数の債権が行う取引が急増しつつある。ここでいう「集合債権」とは、多くの場合、複数の債務者に対する債権を含み、さらには発生済みの債権のみならず将来発生する債権をも含むものである。そこで、このような集合債権を目的とする譲渡担保の有効性がまず問題となる。集合債権譲渡は、その契約の締結日に譲渡の対象の債権が発生していることを要しない(466条の6第1項)。これは、すでに判例が認めていたことを明文化したものである(参考判例①)、集合債権譲渡担保は、設定者(譲渡人)および他の債権者の保護の観点から、譲渡担保の目的たる債権の範囲が特定されている必要があるが、この点についても参考判例①が基準を示しており、債権の発生原因や発生期間に係る事情等のほか、将来債権の譲渡の場合にはその始期と終期を明確にすることによって特定されるとしている。本問では、債権の発生原因(甲建物の賃貸借)および存続期間(2020年4月1日から2025年3月31日まで)が指定されており、特定としては十分と解すべきことになろう。ところで、本問の集合債権譲渡担保は、その目的となる賃料債権を特定していない。DとGの名を特定していない。しかし、このような債権者が不特定である場合であっても、債権の発生原因と期間を特定するなどの方法によって、他の債権者の財産と明確に区別するような事情があれば特定性は満たされると考えるべきである。このような特約がなされた場合に、譲渡担保契約がなされた後に新たに賃借人となったEに対する賃料債権もまた、集合債権譲渡担保の目的物に含まれることになる。2 集合債権譲渡担保の対抗要件集合債権譲渡担保は、あくまで担保目的で設定されるものであり、被担保債権が不履行に陥るまでは、設定者(譲渡人)が引き続き債権から目的債権の弁済を受けることができるとされているのが通常である。しかし参考判例③は、このような場合であっても、債権は設定時から譲渡担保権者に確定的に譲渡されており、ただ、設定者と譲渡担保権者との間において、譲渡担保権者に帰属した債権の一部について、設定者が譲渡人の同意を得て、代わりに取り立てる権限を付与されているにすぎないものと解している。したがって、集合債権譲渡担保も通常の債権譲渡にほかならず、これと同じ方法によってその対抗要件(債権譲渡登記、債務者に対する通知・承諾)を具備することができるのである。本問のように債務者が不特定・多数の場合には、実際上これをいかにして満たせるかの問題となる。C・Dのように、譲渡制限設定時に存在している債務者に対しては、確定日付ある証書による通知を行うことで債務者に対する対抗要件を備えることができるとしても(467条1項・2項)、設定時にはまだ存在しない債務者に対してはどのように通知を行うべきか、他の譲受人(譲渡人の債権者)との間の対抗関係で優劣を主張しうるにすぎない(同条2項)。債務者が存在する場合には、それに同じく通知を行うのも煩雑であるし、より実際的な問題として、債権譲渡を行ったことを債務者に知れてしまうと設定者(譲渡人)の信用に悪影響が及ぶという点も無視できない。これらの問題を解決するために用意されているのが、債権譲渡登記法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)が定める債権譲渡登記制度である。この登記は、譲渡人が法人であり、譲渡対象債権が金銭債権である利用可能である。この制度は、債務者の対抗要件と債権者に対する対抗要件を分離した点に大きな特徴がある。すなわち、まず譲渡対象登記を行った段階で、債権者以外の第三者に対する対抗要件が具備されるが(動産譲渡登記特4条1項)、債権者が債務者に対するためにも、登記事項証明書を債務者に通知しなければならない(同条2項、民法467条に異なり、譲受人から通知してもよい)。このような二重の効力が認められているので、債務者に通知しなくとも債権譲渡の第三者対抗要件を具備することが可能である。また、債務者に対する通知も譲渡の時にまとめてすることができる(債務の発生時期によって登記をすれば足りる)。本件における第三者に対する譲渡制限特約については、Eの新規(2022年5月1日)およびGの新規(2023年4月1日)を基準として他の利害関係人が現れたと解される。3 将来債権をめぐる利害関係の調整本問では、甲建物の賃貸借から生じる賃料債権がまとめて集合債権譲渡担保に供された後、甲建物自体が譲渡担保権者(F)に譲渡されている。このように、集合債権譲渡担保と、集合債権を生み出す財産自体の譲渡とが競合した場合に、譲渡担保権者と当該財産の譲受人のいずれが優先するかの問題となる。参考判例①は、集合債権譲渡担保の目的債権が、賃貸人の賃借人に対する賃料債権の先取特権のように当該財産の価値に内在するものではなく、賃貸人の地位の移転(→本書14章参照)を受けた譲受人は、賃料債権の所有者から当然に目的物を引き渡す義務を負うものではない。譲受人は譲渡担保権者に対し、当該財産から生じる賃料債権を対抗することができないと示した(参考判例②)。将来建物における賃料債権をめぐる利害関係人の間の調整を図る必要があり、集合債権譲渡担保の対抗力をできるだけ弱めることが考えられる。集合債権譲渡担保は対抗要件を備えることを考えると、対抗要件を備えることができないのでは、本問では、少なくともC・Dから賃料を回収することはできるはずではなくBであるという結論になる(これに対し、Gとの賃貸借契約はFが建物を取得した後になされたものであり、これについてはBから賃料の回収を受けるわけではないので、ただちにC・Dと同様に解することはできないと解される)。一方で、学説においてはこの将来債権のうちのどの範囲のものについて、債権譲渡においてはこの将来債権をめぐる問題(処分権)を有するべきかという形で問題が提起され、現在では次の3つの考え方がありうるとされている。①賃料債権の譲渡担保権者は、集合債権譲渡担保の効力を不動産譲受人に対抗することができ、譲渡担保の目的となった賃料債権はすべて譲渡担保権者に帰属するという考え方。この立場は、賃料債権の処分権は不動産の所有者から生じるという理解のもと、譲渡担保設定者(旧賃貸人)は譲渡担保設定の時点では賃料債権を所有しており、将来の賃料のすべてについて処分権限を有していたので、その処分権に基づいて設定された集合債権譲渡担保の効力が当然に優先されるべきではないかと考えるものである。②譲渡担保設定者(旧賃貸人)が締結した賃貸借契約に基づき発生する賃料債権は、譲渡担保権者に帰属するが、不動産の譲受人である新賃貸人が新たに行った賃貸借契約に基づき発生する賃料債権は、新賃貸人に帰属するという考え方。これは、賃料債権の処分権は契約上の地位に基づくものであることを前提に、譲渡担保設定者(旧賃貸人)が締結した契約から生じた賃料債権については、賃貸人の地位(契約上の地位)を承継した不動産譲受人にも譲渡担保の対抗効が及ぶ一方、不動産譲受人が自ら新たに締結した賃貸借契約に基づく発生する賃料債権については、譲渡担保設定者に処分権がなく、譲渡担保の効力が及ばないとする立場である。③集合債権譲渡担保の効力は不動産譲受人(新賃貸人)に対抗することができず、賃貸不動産の譲渡後に発生するすべての賃料債権はすべて新賃貸人に帰属するという考え方。この立場は、不動産の譲渡後に発生する賃料債権は不動産譲受人のもとで発生するため、譲渡担保設定者(旧賃貸人)はこれに対して処分権を有しないと考えるものである。この問題は、譲渡対象債権の処分権が誰について生じるのか(債権を生み出す財産の処分か、契約上の地位か)という理論的な対立があることに加えて、実際的にも、一方では不動産所有者の多様な資金調達を可能にするというメリットを、他方で不動産の所有権と活用が分離することによって生ずる弊害(不動産取引への支障や賃貸不動産の劣化)を、ともに考え合わせなければならないという難しさがある。本問において、仮に③の見解をとるならば、C・D・E・GはBに賃料を支払わなければならないことになる。これに対して②の見解をとると、C・D・EはいずれもFに賃料を支払わなければならず、結論が正反対になる。②の見解だと、譲渡担保設定者であるAと賃貸借契約を締結したC・EはBに、Aから建物を譲り受けた新たに賃貸借契約を締結したFに、それぞれ賃料を支払うべきということになろう。ところで、集合債権譲渡担保をめぐる不動産自体の譲渡とが競合する場合は、本問のような賃貸借ケースに限られない。たとえば、ある企業の特定の取引に基づく売掛債権について集合債権譲渡担保が設定された後に、その取引に係る事業が他の企業に譲渡(会社467条)されたような場合にも、事業譲渡後に発生する売掛債権が譲渡担保権者と事業の譲受人のいずれに帰属するかが問題となる(発問設題①参照)。基本的には上記①〜③と同様の考え方がここでも成り立ちうると思われるが、②の考え方をとる場合にはやや注意が必要である。事業譲渡契約においては、取引関係にすぎず基本的な取引条件を定める契約(基本契約)が締結され、これに基づいて個別の売買契約(個別契約)が繰り返し締結されるという形態がみられる(基本契約)。この場合に、事業譲渡がなされることによって移転するのは設定者(基本契約)の契約上の地位であると考えられるので、集合債権譲渡担保の効力が事業の譲受人に及ぶのは、基本契約と個別契約との結びつきの強弱という微妙な判断に委ねられることとなる。集合債権譲渡担保をめぐっては、これ以外にも、譲渡担保設定後に譲渡対象債権について譲渡制限特約が付された場合に譲渡担保権者はこの債権を取得しうるかという問題があるが(発問設題②参照)、これについては明文が設けられた(466条の6第3項)。[発問]株式会社Aは電子部品の製造を営む中小企業である。Aの技術力は世界的に高く評価されており、将来有望な小型モーターを大手メーカーにCとD社に納入している。2020年4月1日、Aは、運転資金5000万円(期間5年、弁済期2025年3月31日)をB銀行から借り入れるに当たって、「2020年4月1日から2025年3月31日までの間にAが小型モーターの販売によって取得する代金債権を担保のためにBに譲渡する」という内容の譲渡担保設定契約をBと結んだ。これについては同日付で債権譲渡登記が行われ
金属加工業を営むA社は、取引先の自動車メーカーBに対して、継続的に供給しているエンジン用バルブの売買契約に基づく売掛債権αを有している。債権αには、売買契約締結時に交わされたAR間の取引協定書において、「Aは、Bのあらかじめ書面により承諾した場合を除いて、債権αを譲渡・質入れしてはならない」旨の特約(「本件特約」)が付されていた。その後、Aは、金融機関Cから事業資金の追加融資を受けるに当たり、Cの貸金債権を担保するために、Bに事前の承諾を得ることなく、債権αをCに譲渡し、同日債権譲渡登記ファイルに登記をした。Cは、債権αをAから譲り受けるに先立ち、A・B間の契約書の内容をチェックしており、債権αに本件特約が付されていることを知っていたが、Bから譲渡の内諾を得ているというAの説明を信じ、それ以上にBに確認しなかった。他方、Dは、Aに対してバルブの製造に必要な金属類の供給契約に基づく売掛債権γを有していた。債権γの弁済期が到来しても、Aが弁済をしなかったので、Dは、債権γの弁済に代えて債権αを譲り受け、Aは、翌日に確定日付ある証書によりDへの債権譲却をBに通知した。Dは、債権αを譲り受ける際に、A・B間の契約書の内容を確認しておらず、債権αに本件特約が付されていることを知らなかった。債権譲渡通知書を受領したBは、Aに事情を問い合わせ、このときにはじめて、Aが債権αを事前の相談なしにCおよびDに譲渡していた事実を知った。AがCから融資を受けることはAの経営上不可欠であることから、Bは、債権αをAがCへ譲渡したこともやむを得ないと判断し、Cへの譲渡を書面により承諾した。Bは、CとDのいずれに債権αを弁済すべきか、少し判断に迷ったものの、債権譲渡登記の日付がDへの債権譲渡通知の到達日時よりも早かったこともあり、Cに対して債権αを弁済した。その後、DがBに対して債権αの履行を請求した。Dの請求は認められるか。[参考判例](1) 最判昭和48・7・19民集27巻7号823頁(2) 最判昭和45・4・10民集24巻4号240頁(3) 最判平成9・6・5民集51巻5号2053頁(4) 最判平成21・3・27民集63巻3号449頁[解説]1 債権譲渡制限特約とは(1) 特約の意義債権は、財産権であり、その性質が許さない場合を除いて、自由に譲り渡すことができるのが原則である(466条1項)。債権譲渡制限特約とは、それにもかかわらず、債権の譲渡を禁止し、または債権譲渡の効力を生じさせるために債務者の承諾を要するなどの方式により、債権の有する譲渡性を制限する趣旨の意思表示を含む債権者・債務者間の特約をいう(同条2項)。預貯金債権は譲渡制限特約が付されていることが通常となっている。建設業請負契約に基づく請負人が報酬債権の処分により譲渡制限特約が付されていることが多い。特に、近時は、本問のように、売掛債権にも譲渡制限特約が明記されている。この特約の目的は債権の発生を阻害する要因として問題視されるようになっている。いずれにせよ、譲渡制限特約の効力については、主に金銭債権を念頭に置いて議論がされてきた。(2) 特約によって保護されるべき利益債権譲便制限特約は、債権者が本来有する譲渡性を制約する趣旨の意思表示を含む合意であり、譲渡されると困る何らかの事情がある債務者の利益譲を目的として交わされ、すなわち、債務者は、①(相殺)相手方を固定することにより、②将来に同一の当事者間で反対債権が発生した場合の相殺の期待権の確保、③相殺に対する期待権の確保、④A間の金銭の授受に関する債権として債権αを固定することにより、債権の一元化による事務処理の煩雑さを避けることなどを目的とするものである。譲渡制限特約の定め方は一様ではない。本件特約のようなもののほか、「債権者は一切譲渡・質入れをしてはならない」とか、「債権者は書面による債務者の承諾があれば債権を譲渡できる」といったものがある。後者の特約であれば債務者が自己の判断で譲渡を有効に譲渡することができない、という観点において共通することから、民法466条2項もこれらを譲渡制限特約として一括して規律している。2 特約の第三者に対する効力(1) 債権的効果民法466条2項は、譲渡制限特約の効力を物権的に捉えている。すなわち、債務者の財産権としての性質を重視し、その譲渡を当事者が任意に制約することはできず、特約付債権の譲受人はその意思・悪意にかかわらず、譲渡制限特約の効力を有効なものとして主張しうるとしている。譲渡制限特約の譲渡は少なくとも第三者との間においては一切影響を受けない。譲渡制限特約には経済的な効力を阻害しないという債務者の保護に必要な範囲で一定の効力が認められるにすぎないと考えられている。本問において、Cは、特約の存在を知っていても、債権αを取得し、かつCへの譲渡につき債権譲渡登記により第三者対抗要件も具備されていることから(譲渡制限特約4条1項)、その後に債権αを本件特約の存在を知らずにDが譲り受けた第三者に対抗要件を備えたとしても、Cが確定的に債権αの第一次的な権利者である。Bは、特約の存在を理由として、債権αがCに帰属している状態で、従前どおりAに対して弁済その他の債権消滅行為を行うことができる余地を確保することができれば足り、債権譲渡の譲渡が無効であるという主張までBに許すのは、特約の目的を超えた過剰な効果を与えることになるといわざるをえない。なお、当事者間で譲渡を禁止ないし制約する合意をすること自体は有効である。本問において、債務者の交替に伴ってBが負担する弁済費用が増加した場合などには、Cに債権の譲渡に伴う事務処理費用が増加したときは、BからCに請求しうる可能性がある。今の譲渡制限特約付債権の譲渡によって債務者が負担を生じる余地がないという特約の定め方を工夫して(2) 物権的効果他方、契約自由の原則を重視する場合、当事者による内容形成の自由の一環として、債権者と債務者の合意のみにより譲渡性を制約された債権を創出することができうると考えられる。この場合、意思表示による譲渡の効力は物権法上の譲渡と同視しうるので、その意思表示による譲渡の効力も譲渡制限の意思表示に反して第三者に対抗することができる」と判断した。判例は、善意の第三者についても譲渡が無効であると解することができる(参考判例①)、同項ただし書の「善意」を「無重過失」と解すべきかについて、同項の趣旨が譲渡契約の有効性と譲渡人の契約上の地位を明確に区分したものであること(物権的効果説)と解してきた(参考判例②)。よって、2017年改正民法では、Cへの譲渡は①無効であり、無効な譲渡に関する譲渡制限特約登記も法務上有効である。他方、善意のDに過失がなければ、Dへの譲渡は有効である。Dへの譲渡があることによって債務者に対する関係では、本件特約付債権も譲渡されることとなる。本件では、Dの無重過失も問題となるが、譲渡制限特約の存在につき悪意・重過失であった場合はBがDへの譲渡についても無効であると主張できることになり、第三者対抗要件の先後によるのでは(467条1項)、Dの権利が優先すると考えられる。このように第三者の保護が優先されるのは、2017年改正民法は466条の2で抗弁の付着性の観点から自己の権利の有効性を判断できるためである。3 債務者の利益保護(1) 悪意・重過失の譲受人に対する履行拒絶民法466条2項は、債権譲渡を保護する方針で、つまり譲渡制限の保護を重視する利益を立てた(2(1))。反面、債務者は弁済の相手方を譲渡人に固定することによって生じる利益を有しているから、そのような債務者の利益にどう配慮すべきか、次に問題となる。譲渡制限特約に対抗することのできる場合の第三者の主観的態様に応じて区別する考え方は、2017年改正民法466条2項において採用されており、そうした考え方自体は民法466条3項にもそのまま承継されている。すなわち、Cが譲渡制限特約の存在について悪意の場合、Bにも応力を主張するまでもなく、BがCに弁済することを拒否し、代金を全額Bに持参して供託することも許されよう。そこで、Cが譲渡制限特約がある場合は悪意と推定され、Bは、Cへの請求において、譲渡を承諾してCに対して弁済をしてもよいし、特約に基づき自己の債務を履行するように絶えず促したうえで、Aに対して弁済その他の債務消滅行為(相殺など)をしてもよい。このように、債権の履行拒絶特約は、譲受人の悪意・重過失の限度で、債権の帰属・収支機能を弁済請求の債権者の分離と承認を促すものとして再構成されており、従来の物権的効果を精緻化したものといえよう。(2) 供託債務者Bは譲受人の主観的態様を窺知しうる立場にはない。そうすると債権者譲渡の事実を知ったBとしては、そもそも譲渡制限特約のもとに主張できるのかどうかかわからない不安定な立場に置かれる。また、本問のように債権者がCとDに二重に譲渡されていることもあり、いずれに支払うべきか迷うことも考えられる。そこで、債務者はBのような場合に供託をして免責を得ることができるとされている(466条の2)。2017年改正民法は、悪意・重過失の譲渡人は無効となるため、A・C・Dのいずれかの者も過失なく知ることができない場合に該当し、非弁済供託の一般規定(旧494条後段)に従い供託することができる。ところが、譲渡制限特約付債権の譲渡が常に有効とされ、債務者が債権を譲渡することができない事態が生じないことになったため、特約の存在を知るか否かが重要な要素である。4 債務者の抗弁権の主張が制約される場合(1) 悪意・善意で譲渡Cは、悪意で債権αを取得してもBが譲渡制限特約を主張してAに弁済すればCに対して不当利得返還請求ができる。この点は改正民法上も大きな違いはなく、債権の譲渡性を高めるうえで重要な改正点と評価されている。もっとも、これだけでは譲受人の利益保護というわけではない。すなわち、このときのBの意思が大切であり、Bは債権者ではないA・Bに対して債務を履行して弁済する。そうすると、Bは、Cの故意・重過失による無効を主張してCに対して債務の履行を拒絶しないことになるとも想定しておかねばならない。B間に履行の履行を強制できないという不利益が生じることがないという状態が続くのが問題である。そこで、このような事態の早期収拾に苦慮した譲受人は相当の期間を定めて譲受人に履行を請求するよう催告することができ、債務者は、相当の期間の経過後もAに履行がないときは、債務者は譲渡制限特約を主張することをできなくなる(466条4項)。特約の存在により債権を譲渡するべきでないと考える場合であっても、譲渡されるべきでない利益を守るべき手続きにすぎずにおり、債務者が履行によって保護されるべき債権の譲渡の効力を否定して譲受人へ履行を拒絶する正当な利益はないという趣旨が問題である。よって、悪意・重過失のCがAに履行するよう催告をして相当期間が経過した後はBがCにAの履行しない場合、Cの請求・催告義務違反の場合と同じ法律関係に転換し、Bは、譲渡制限特約の存在を無視して自己の債務を請求することができることになる。(2) 倒産・転付命令等による債務者が破産等により任意に債務の履行を期待することを認め、債務者の主観的態様にかかわらず、譲渡制限特約付債権を譲渡することによる。Cが譲渡制限特約付債権の譲渡を得意とする場合にも、転付命令、命令によって取得することができる(466条の5第1項)。本問において、仮にCが債権を譲り受け、代物弁済・転付命令を得た場合、B・重過失であっても、Bは客観的に主張されることはない。また、仮にCに対する一般債権者Eが差押命令を得た場合は、すでにCに確定的に帰属しているから、Eも、その主観的態様にかかわらず、債権αを差押・転付命令により取得することができる。もっとも、Bがよりも有利な地位に置かれるべき理由はない。Bは、Cの故意・重過失に由来する履行拒絶特約を主張しうる場合は、Eに対してBも同様にその特約を主張して履行を拒絶することができる(同条2項)。5 預貯金債権の特則(1) 物権的効果の維持これまで述べてきた譲渡制限特約に関する原則的ルールは、債権の種類や譲渡制限特約の当事者の属性、譲渡の回収行為の有無等を問わず、一律に適用して妥当する。唯一の例外は預貯金債権に関する譲渡制限特約に関する譲渡制限の物権的効果(2(1))が引き続き認められる。すなわち預貯金債権の譲渡の譲渡は原則として無効であり、善意・無重過失の譲受人への譲渡も無効である(466条の5第1項)。例外承認の正当化根拠として、①民法466条2項の適用に対応したシステムを構築し、それに伴って管理しようとすれば、コストが著しく増大すること、②頻繁に入出金が行われる膨大な数の預託口座の管理において円滑な払戻業務に支障が生じかねないこと、③預貯金債権はその性質上現金化されているも同然であり、差入人の資金調達の便宜を図るために譲渡性の障害となる特約の効力を制限する必要性に乏しい、などと説明されている。譲渡制限特約により譲渡が禁止される債権については、無効の譲渡であってもその後の譲渡(466条の5第2項、参考判例③、参考判例②)は有効に扱われ、Cに対して預金債権を譲渡した場合にも、Dはその後の善意・悪意にかかわらず債権αを差し押さえ転付命令により取得することができる。(2) 物権的効果の下での解除譲渡制限特約に物権的効果が認められるが、かつ譲受人が悪意・重過失である場合には問題となる(無効の主張権者の範囲である。原則として債務者による解除が常に有効であると考えると、原則として主張権者が債務者に限定されると考えられる(相対的無効説))。他方で、債務者の他に無効を主張することにつき独自の利益を有する者は無効を主張することができるという考え方(相対的無効説)もありうる。判例は、少なくとも譲渡人および譲渡人の他の債権者が物権的効果を主張しうる根拠を認めていない(参考判例①)。次に、債務者が譲渡を承諾した場合、譲渡が承諾時から将来的に有効になるのかどうかも問題となる。判例は、処分行為それ自体は無効だが、処分権限なき者のした法律行為について権利者のした追認に関する民法116条ただし書の法の法意に依拠し、債務者は、債権譲探の事実を承諾より前に知っていたために有効になるものを、譲渡承諾後に出現した包括承継のような事由により譲渡債権の対抗的効力を有する第三者の利益を害することはできないと解している(参考判例④)。[関連問題]Aに破産手続が開始し、Eが破産管財人に選任された。CがBに対して債権αの履行を求めた場合、Bは本件特約を主張することができるか。また、Cは債権αを確実に回収するためにはどのような請求をするべきか(466条3項)。[参考文献]野澤正充・百選Ⅱ52頁/角紀代恵・平成21年度重判53頁/第一法規株関係159頁/講義207頁(小野美恵)/Before/After252頁(篠崎)(石田 剛)
金属加工業を営むA社は、取引先の自動車メーカーBに対して、継続的に供給しているエンジン用バルブの売買契約に基づく売掛債権αを有している。債権αには、売買契約締結時に交わされたAR間の取引協定書において、「Aは、Bのあらかじめ書面により承諾した場合を除いて、債権αを譲渡・質入れしてはならない」旨の特約(「本件特約」)が付されていた。その後、Aは、金融機関Cから事業資金の追加融資を受けるに当たり、Cの貸金債権を担保するために、Bに事前の承諾を得ることなく、債権αをCに譲渡し、同日債権譲渡登記ファイルに登記をした。Cは、債権αをAから譲り受けるに先立ち、A・B間の契約書の内容をチェックしており、債権αに本件特約が付されていることを知っていたが、Bから譲渡の内諾を得ているというAの説明を信じ、それ以上にBに確認しなかった。他方、Dは、Aに対してバルブの製造に必要な金属類の供給契約に基づく売掛債権γを有していた。債権γの弁済期が到来しても、Aが弁済をしなかったので、Dは、債権γの弁済に代えて債権αを譲り受け、Aは、翌日に確定日付ある証書によりDへの債権譲却をBに通知した。Dは、債権αを譲り受ける際に、A・B間の契約書の内容を確認しておらず、債権αに本件特約が付されていることを知らなかった。債権譲渡通知書を受領したBは、Aに事情を問い合わせ、このときにはじめて、Aが債権αを事前の相談なしにCおよびDに譲渡していた事実を知った。AがCから融資を受けることはAの経営上不可欠であることから、Bは、債権αをAがCへ譲渡したこともやむを得ないと判断し、Cへの譲渡を書面により承諾した。Bは、CとDのいずれに債権αを弁済すべきか、少し判断に迷ったものの、債権譲渡登記の日付がDへの債権譲渡通知の到達日時よりも早かったこともあり、Cに対して債権αを弁済した。その後、DがBに対して債権αの履行を請求した。Dの請求は認められるか。[参考判例](1) 最判昭和48・7・19民集27巻7号823頁(2) 最判昭和45・4・10民集24巻4号240頁(3) 最判平成9・6・5民集51巻5号2053頁(4) 最判平成21・3・27民集63巻3号449頁[解説]1 債権譲渡制限特約とは(1) 特約の意義債権は、財産権であり、その性質が許さない場合を除いて、自由に譲り渡すことができるのが原則である(466条1項)。債権譲渡制限特約とは、それにもかかわらず、債権の譲渡を禁止し、または債権譲渡の効力を生じさせるために債務者の承諾を要するなどの方式により、債権の有する譲渡性を制限する趣旨の意思表示を含む債権者・債務者間の特約をいう(同条2項)。預貯金債権は譲渡制限特約が付されていることが通常となっている。建設業請負契約に基づく請負人が報酬債権の処分により譲渡制限特約が付されていることが多い。特に、近時は、本問のように、売掛債権にも譲渡制限特約が明記されている。この特約の目的は債権の発生を阻害する要因として問題視されるようになっている。いずれにせよ、譲渡制限特約の効力については、主に金銭債権を念頭に置いて議論がされてきた。(2) 特約によって保護されるべき利益債権譲便制限特約は、債権者が本来有する譲渡性を制約する趣旨の意思表示を含む合意であり、譲渡されると困る何らかの事情がある債務者の利益譲を目的として交わされ、すなわち、債務者は、①(相殺)相手方を固定することにより、②将来に同一の当事者間で反対債権が発生した場合の相殺の期待権の確保、③相殺に対する期待権の確保、④A間の金銭の授受に関する債権として債権αを固定することにより、債権の一元化による事務処理の煩雑さを避けることなどを目的とするものである。譲渡制限特約の定め方は一様ではない。本件特約のようなもののほか、「債権者は一切譲渡・質入れをしてはならない」とか、「債権者は書面による債務者の承諾があれば債権を譲渡できる」といったものがある。後者の特約であれば債務者が自己の判断で譲渡を有効に譲渡することができない、という観点において共通することから、民法466条2項もこれらを譲渡制限特約として一括して規律している。2 特約の第三者に対する効力(1) 債権的効果民法466条2項は、譲渡制限特約の効力を物権的に捉えている。すなわち、債務者の財産権としての性質を重視し、その譲渡を当事者が任意に制約することはできず、特約付債権の譲受人はその意思・悪意にかかわらず、譲渡制限特約の効力を有効なものとして主張しうるとしている。譲渡制限特約の譲渡は少なくとも第三者との間においては一切影響を受けない。譲渡制限特約には経済的な効力を阻害しないという債務者の保護に必要な範囲で一定の効力が認められるにすぎないと考えられている。本問において、Cは、特約の存在を知っていても、債権αを取得し、かつCへの譲渡につき債権譲渡登記により第三者対抗要件も具備されていることから(譲渡制限特約4条1項)、その後に債権αを本件特約の存在を知らずにDが譲り受けた第三者に対抗要件を備えたとしても、Cが確定的に債権αの第一次的な権利者である。Bは、特約の存在を理由として、債権αがCに帰属している状態で、従前どおりAに対して弁済その他の債権消滅行為を行うことができる余地を確保することができれば足り、債権譲渡の譲渡が無効であるという主張までBに許すのは、特約の目的を超えた過剰な効果を与えることになるといわざるをえない。なお、当事者間で譲渡を禁止ないし制約する合意をすること自体は有効である。本問において、債務者の交替に伴ってBが負担する弁済費用が増加した場合などには、Cに債権の譲渡に伴う事務処理費用が増加したときは、BからCに請求しうる可能性がある。今の譲渡制限特約付債権の譲渡によって債務者が負担を生じる余地がないという特約の定め方を工夫して(2) 物権的効果他方、契約自由の原則を重視する場合、当事者による内容形成の自由の一環として、債権者と債務者の合意のみにより譲渡性を制約された債権を創出することができうると考えられる。この場合、意思表示による譲渡の効力は物権法上の譲渡と同視しうるので、その意思表示による譲渡の効力も譲渡制限の意思表示に反して第三者に対抗することができる」と判断した。判例は、善意の第三者についても譲渡が無効であると解することができる(参考判例①)、同項ただし書の「善意」を「無重過失」と解すべきかについて、同項の趣旨が譲渡契約の有効性と譲渡人の契約上の地位を明確に区分したものであること(物権的効果説)と解してきた(参考判例②)。よって、2017年改正民法では、Cへの譲渡は①無効であり、無効な譲渡に関する譲渡制限特約登記も法務上有効である。他方、善意のDに過失がなければ、Dへの譲渡は有効である。Dへの譲渡があることによって債務者に対する関係では、本件特約付債権も譲渡されることとなる。本件では、Dの無重過失も問題となるが、譲渡制限特約の存在につき悪意・重過失であった場合はBがDへの譲渡についても無効であると主張できることになり、第三者対抗要件の先後によるのでは(467条1項)、Dの権利が優先すると考えられる。このように第三者の保護が優先されるのは、2017年改正民法は466条の2で抗弁の付着性の観点から自己の権利の有効性を判断できるためである。3 債務者の利益保護(1) 悪意・重過失の譲受人に対する履行拒絶民法466条2項は、債権譲渡を保護する方針で、つまり譲渡制限の保護を重視する利益を立てた(2(1))。反面、債務者は弁済の相手方を譲渡人に固定することによって生じる利益を有しているから、そのような債務者の利益にどう配慮すべきか、次に問題となる。譲渡制限特約に対抗することのできる場合の第三者の主観的態様に応じて区別する考え方は、2017年改正民法466条2項において採用されており、そうした考え方自体は民法466条3項にもそのまま承継されている。すなわち、Cが譲渡制限特約の存在について悪意の場合、Bにも応力を主張するまでもなく、BがCに弁済することを拒否し、代金を全額Bに持参して供託することも許されよう。そこで、Cが譲渡制限特約がある場合は悪意と推定され、Bは、Cへの請求において、譲渡を承諾してCに対して弁済をしてもよいし、特約に基づき自己の債務を履行するように絶えず促したうえで、Aに対して弁済その他の債務消滅行為(相殺など)をしてもよい。このように、債権の履行拒絶特約は、譲受人の悪意・重過失の限度で、債権の帰属・収支機能を弁済請求の債権者の分離と承認を促すものとして再構成されており、従来の物権的効果を精緻化したものといえよう。(2) 供託債務者Bは譲受人の主観的態様を窺知しうる立場にはない。そうすると債権者譲渡の事実を知ったBとしては、そもそも譲渡制限特約のもとに主張できるのかどうかかわからない不安定な立場に置かれる。また、本問のように債権者がCとDに二重に譲渡されていることもあり、いずれに支払うべきか迷うことも考えられる。そこで、債務者はBのような場合に供託をして免責を得ることができるとされている(466条の2)。2017年改正民法は、悪意・重過失の譲渡人は無効となるため、A・C・Dのいずれかの者も過失なく知ることができない場合に該当し、非弁済供託の一般規定(旧494条後段)に従い供託することができる。ところが、譲渡制限特約付債権の譲渡が常に有効とされ、債務者が債権を譲渡することができない事態が生じないことになったため、特約の存在を知るか否かが重要な要素である。4 債務者の抗弁権の主張が制約される場合(1) 悪意・善意で譲渡Cは、悪意で債権αを取得してもBが譲渡制限特約を主張してAに弁済すればCに対して不当利得返還請求ができる。この点は改正民法上も大きな違いはなく、債権の譲渡性を高めるうえで重要な改正点と評価されている。もっとも、これだけでは譲受人の利益保護というわけではない。すなわち、このときのBの意思が大切であり、Bは債権者ではないA・Bに対して債務を履行して弁済する。そうすると、Bは、Cの故意・重過失による無効を主張してCに対して債務の履行を拒絶しないことになるとも想定しておかねばならない。B間に履行の履行を強制できないという不利益が生じることがないという状態が続くのが問題である。そこで、このような事態の早期収拾に苦慮した譲受人は相当の期間を定めて譲受人に履行を請求するよう催告することができ、債務者は、相当の期間の経過後もAに履行がないときは、債務者は譲渡制限特約を主張することをできなくなる(466条4項)。特約の存在により債権を譲渡するべきでないと考える場合であっても、譲渡されるべきでない利益を守るべき手続きにすぎずにおり、債務者が履行によって保護されるべき債権の譲渡の効力を否定して譲受人へ履行を拒絶する正当な利益はないという趣旨が問題である。よって、悪意・重過失のCがAに履行するよう催告をして相当期間が経過した後はBがCにAの履行しない場合、Cの請求・催告義務違反の場合と同じ法律関係に転換し、Bは、譲渡制限特約の存在を無視して自己の債務を請求することができることになる。(2) 倒産・転付命令等による債務者が破産等により任意に債務の履行を期待することを認め、債務者の主観的態様にかかわらず、譲渡制限特約付債権を譲渡することによる。Cが譲渡制限特約付債権の譲渡を得意とする場合にも、転付命令、命令によって取得することができる(466条の5第1項)。本問において、仮にCが債権を譲り受け、代物弁済・転付命令を得た場合、B・重過失であっても、Bは客観的に主張されることはない。また、仮にCに対する一般債権者Eが差押命令を得た場合は、すでにCに確定的に帰属しているから、Eも、その主観的態様にかかわらず、債権αを差押・転付命令により取得することができる。もっとも、Bがよりも有利な地位に置かれるべき理由はない。Bは、Cの故意・重過失に由来する履行拒絶特約を主張しうる場合は、Eに対してBも同様にその特約を主張して履行を拒絶することができる(同条2項)。5 預貯金債権の特則(1) 物権的効果の維持これまで述べてきた譲渡制限特約に関する原則的ルールは、債権の種類や譲渡制限特約の当事者の属性、譲渡の回収行為の有無等を問わず、一律に適用して妥当する。唯一の例外は預貯金債権に関する譲渡制限特約に関する譲渡制限の物権的効果(2(1))が引き続き認められる。すなわち預貯金債権の譲渡の譲渡は原則として無効であり、善意・無重過失の譲受人への譲渡も無効である(466条の5第1項)。例外承認の正当化根拠として、①民法466条2項の適用に対応したシステムを構築し、それに伴って管理しようとすれば、コストが著しく増大すること、②頻繁に入出金が行われる膨大な数の預託口座の管理において円滑な払戻業務に支障が生じかねないこと、③預貯金債権はその性質上現金化されているも同然であり、差入人の資金調達の便宜を図るために譲渡性の障害となる特約の効力を制限する必要性に乏しい、などと説明されている。譲渡制限特約により譲渡が禁止される債権については、無効の譲渡であってもその後の譲渡(466条の5第2項、参考判例③、参考判例②)は有効に扱われ、Cに対して預金債権を譲渡した場合にも、Dはその後の善意・悪意にかかわらず債権αを差し押さえ転付命令により取得することができる。(2) 物権的効果の下での解除譲渡制限特約に物権的効果が認められるが、かつ譲受人が悪意・重過失である場合には問題となる(無効の主張権者の範囲である。原則として債務者による解除が常に有効であると考えると、原則として主張権者が債務者に限定されると考えられる(相対的無効説))。他方で、債務者の他に無効を主張することにつき独自の利益を有する者は無効を主張することができるという考え方(相対的無効説)もありうる。判例は、少なくとも譲渡人および譲渡人の他の債権者が物権的効果を主張しうる根拠を認めていない(参考判例①)。次に、債務者が譲渡を承諾した場合、譲渡が承諾時から将来的に有効になるのかどうかも問題となる。判例は、処分行為それ自体は無効だが、処分権限なき者のした法律行為について権利者のした追認に関する民法116条ただし書の法の法意に依拠し、債務者は、債権譲渡の事実を承諾より前に知っていたために有効になるものを、譲渡承諾後に出現した包括承継のような事由により譲渡債権の対抗的効力を有する第三者の利益を害することはできないと解している(参考判例④)。[関連問題]Aに破産手続が開始し、Eが破産管財人に選任された。CがBに対して債権αの履行を求めた場合、Bは本件特約を主張することができるか。また、Cは債権αを確実に回収するためにはどのような請求をするべきか(466条3項)。[参考文献]野澤正充・百選Ⅱ52頁/角紀代恵・平成21年度重判53頁/第一法規株関係159頁/講義207頁(小野美恵)/Before/After252頁(篠崎)(石田 剛)
2024年4月1日、AはBに対し、弁済期を2025年3月31日と定め300万円を貸し付けた。Bが有する唯一の財産は、2023年10月5日に死亡した父Cから相続により取得した甲土地(評価額500万円)のみであった。Bは、2024年5月15日に甲土地について相続を原因とする所有権移転登記を経由した。2024年10月15日、Bは友人のDに対し、甲土地を代金250万円で売却し、同日、その所有権移転登記を経由した。さらに、甲土地は、同年12月7日、DからEに代金300万円で売却され、同日、その旨の所有権移転登記を経由している。2025年1月20日、Aは甲土地がBからD、DからEへと売却された事実を知った。その後、関係者に事実関係を確認し、同年2月20日までは、それぞれの売買について代金の支払をまだ済ませておらず、DおよびEは、それぞれ代金の支払を済ませており、また、BがAから300万円を負担している事実、甲土地がBの有する唯一の財産であった事実、そして、甲土地の評価額が500万円であること、それぞれの売買契約当時、知っていたとのことである。Aは、BがDやEより黒い価格でCに甲土地を売却した行為について詐害行為取消権を行使したい。このとき、Aは誰に対してどのような請求ができるか。[参考判例](1) 大判明治44・3・24民録17輯117頁(2) 最判昭和49・12・12法法743号31頁[解説]1 詐害行為取消権の法的性質詐害行為取消権の行使方法およびその効果を検討するに当たっては、まず詐害行為取消権の法的な性質が問題となる。この点に関して、有名な参考判例①は、以下の5点を示し、これが2017年改正民法の基礎となった。①詐害行為の取消しは形成訴訟にしかよれない②その取消しの効果は遡及するものではない③債権者が受益者に対して返還請求権を行使し④受益者が債務者に対して反対給付の返還請求をすることも、あるいは転得者に対して第一順位で代金の支払を求めることも可能である⑤受益者は債務者に対する反対給付の返還請求権を行使し、その返還を求めることもできる。受益者が財産を費消してその財産を返還できないときは、相殺が認められること。⑥受益者から財産を取得した転得者に対しては、受益者と同様の請求が可能である。2017年改正民法は、この参考判例①の内容の多くを明文化している。すなわち、取消権者は、受益者または転得者に対して取消請求をする(返還が困難なときは価額の償還請求)とともに民法424条の6が規定する。また、債務者に被告は訴える必要はなく、訴訟告知の対象となることも民法424条の7が規定する。しかし、一方で民法は、これまでと同様に、詐害行為取消権を構成するについては、これを民法425条において、詐害行為取消権を請求する確定判決は、債務者およびそのすべての債権者に対してもその効力を有する旨を規定する。以上より、現行民法下においても、これまでと同様にAは、Dを被告として訴訟を提起することも、また、Eを被告として訴訟を提起することも認められる。また、取消債権者の債権は、詐害行為より前に原因に基づいて生じたものであればよいとされ(424条2項)、AはBがDに甲土地を売却したときから(Aは弁済期にある必要はなく)、Bの売買行為を詐害行為であるとして取消しを求めることができる。ちなみに、2017年改正民法は受益者の善意に関する立証責任に関する判例法理を想定しており(大判昭和9・11・30民集13巻2191頁)、改正民法は424条4項で、BがDに土地を売却した行為は2024年10月15日であり、無償行為であるから、B・D間の売買行為には改正民法が適用されるとしている。2 受益者に対する請求詐害行為により逸出した財産が不動産であり、その不動産に何の返還を請求する場合、移転登記を経由しているときは、抹消に代わる移転登記を求めることによって、債務者への財産の返還が実現される。これに対し、返還の請求が金銭の支払または動産の引渡しを求めるものであるときは、取消債権者は受益者あるいは転得者に対し直接、自己に引渡しを求めることができると解されていた(最判昭和36・7・19民集15巻7号1876頁)。1158頁、最判昭和61・1・23民集40巻1号23頁)。この場合には受益者が受領する必要となるので、債務者に代位して受領権限がある者から、取消債権者による財産の返還の請求が適切であるとの趣旨である。民法もこの判例法理を、424条の9第1項で明文化する。また、受益者あるいは転得者が逸出財産をすでに処分してしまって財産を返還できないときは、価額賠償が認められる。この場合、詐害行為の時点の価格によって賠償すべきか、あるいは、賠償請求時の価格によって賠償すべきかについて、訴訟提起の際に価格が変動する可能性があるため、その点を明確にするため(424条の8第1項・2項後段)、受益者・転得者の善意・悪意を問わず、返還を請求することができるとされ(424条の8第1項前段・2項前段)、受益者・転得者の善意・悪意によってその内容が変わることはない。AはDを被告として、取消請求とともに、Aに対する所有権移転登記を求めることとなる。その場合、Aの被保全債権は300万円であるが、Aの被保全債権額を超える部分については注意を要する。価額賠償は500万円である。Aの被保全債権額を超える部分の支払を受け、超過の相殺処理によって自らが債務者に対する債権の満足をすることができることとされた。Dに対する価額賠償請求も自らが500万円の限度で請求をすることができ、Dはこの請求に応じなければならない。Dが自己の財産をBに返還すべきである。この点について改正法では、受益者は取消債権者の債権の額の限度で返還の義務を負うと規定している(ちなみに小問⑵は、財産分与行為も行為の目的が可分であるとして同様の基準を定めている)。したがって、AがDに請求しうる請求額は300万円である。取消請求においてDに対する請求が認容されると、B・D間の売買契約の取消しと、DがCに対して300万円を支払うべき旨の判決がなされた。この確定判決とその効力は民法425条の規定によりBおよびすべての債権者に及ぶことになる(425条)。従来、「相対的取消構成」が提唱されていたが、その結果、Bについても免責の効果が及ぶ以上、その意義は本来、Bが取得すべきものであるとして、仮にAが300万円の支払をDより受ければ、BはAに対し、その300万円をBに支払うよう請求することになる。これに対しAはBに反対する給付債権を自働債権として相殺することが想定されるのである。2017年改正民法下でも判例は相殺処理を認めているとして(最判昭和37・10・9民集16巻10号2070頁)、判例が指摘されることがあったが、当該判例の射程は相殺の成否の争点ではなかった。相殺処理の可否については相殺処理に賛成に回ったところである(中田・債権総論325頁)。これに対して、相殺処理は事実審の判断によることが妥当ではないとの理由から、相殺処理は認められないとの見解が示された(藤原審議官)。もっとも、このような形成訴訟を経れば、取消債権者が債務者に先立って自己の債権を回収することが可能となり、これは債権者平等の原則に反するとの批判がある。取消権の創設趣旨である、責任財産の保全という考え方を踏まえ、判例は相殺処理を認めないとの見解に変わり、その結果、民法425条を根拠に、債務者の財産回復請求という新たな権利を認め、他の債権者がこの返還請求権に対し、差押えあるいは製造物責任法上の責任を負うことを認めることとした(参考判例②)。詐害行為取消訴訟を提起し、物権的効果を伴わないことなどが点在している(民執166号〔2021〕30頁)。一方で、買主であるDはBに支払った代金250万円の返還請求をBに対し求めることになる。この点についての規定が、民法は、旧民法では取消権行使を認めた場合、受益者にどのような請求権が認められるか、旧民法には規定がなかった。これに対し、民法425条の2において、受益者は債務者に対し、その財産を取得するために給付した反対給付の返還を請求しうることを規定した。ここにも相対的取消構成の見直しが影響している。3 転得者に対する請求AがEを被告として訴訟提起をする場合、現物の返還が可能であるから、Aが求める訴えの内容は、2024年10月15日になされたB・D間の売買契約の取消しと、Eが甲土地の所有権登記をBに返還するように求めるものとなる。転得者に対する取消請求も、取り消される行為はあくまで債務者の行為(D・B間の売買契約)であり、受益者と転得者間の行為(D・E間の売買契約)ではないことに留意すべきである。この請求が認容されるか否かの帰趨は転得者の主観によるのであり、この点、民法425条では転得者がその行為の時において債権者を害すべき事実を知っていたときに限り取消しは効力を生じない。そのために、Eは甲土地の所有権を取得するにあたって、Bに対し、Dに代わって代金を支払ったが、Bの債権者を害することを知らなかったとしても、自己に支払った代金200万円の返還を求めることはできない。このままではDは自己の財産を失うことになるので、民法は転得者の保護を図っており、受益者・転得者の善意・悪意により請求できるか否かを決すべきとされ、また民法425条の2の規定によりEがDに求償すべきである(またはその価額の償還請求)。その場合、EはDに支払った代金300万円の返還を、Dに対し不当利得として返還請求ができる(425条の4第1項)。Eは、Bに対し、200万円の支払を求めることができる。なお、転得者に対する取消請求が認められるための要件について、民法はこれまで判例法理を重要視する必要がある。すなわち、参考判例②は、盗品の転得者が被害者から所有権に基づいて返還請求を受けた場合、盗品を占有していた期間が2年を超えていたケースにおいても、現在の転得者が悪意であれば取消権行使は可能とし、この点についても相対的な解決を指向していた。これに対し、民法424条の5は、転得者に対する取消の訴訟は、受益者に対する行為の取消を請求することができる場合で、かつ転得者が悪意であるときに限ると規定した。転得者の保護の他に公益の要素を考慮している。また、転得者となる前の善意の転得者が介在する場合はその後の転得者もそれぞれの善意の転得者として扱われる。したがって、仮にDが詐害行為の事実について善意であったとすると、たとえEが悪意であったとしても取消権行使は認められない。さらに、甲土地の所有権を登記名義人から転得した場合のその後の処理であるが、取消債権者(あるいは別に債権者)によって不動産強制競売の申立がなされることが想定される。その手続は通常民事執行法の規定によりなされるので、民事執行法と詐作行為の規定の適用を調整する必要がある。民法425条の4によれば上記のとおり300万円を請求しうるが、この債権についても債務名義をもち、その債権にもとづき民事執行法所定の要件を満たせば、競売手続において配当を受けることができる。4 その他の検討課題民法425条によりなされる判断の効力はどのような第三者の行為であろうか。とりあえずは取消判決の効力は判決の確定により生じると考えられるが、しかしながら、債務者およびその債権者間の法律関係にはなっておらず、紛争の相対的解決の原則と衝突すると民事訴訟手続において、なぜこれらの者が優先できるのかという問題が生じる。そこで、学説には司法権の拡張による解決法(訴訟の目的がもののほかは当事者以外にも及ぶもの)と民事訴訟の判例法理にも問題があり、今後の議論の深化が待たれる。さらには、取消訴訟の係属中に債務者が破産した場合に訴訟に参加する参加形態がどのようなものなのか、さらには債務者の他の債務者が原告に訴訟参加した場合などは、なぜ訴訟手続に関する検討も不可欠となる。筆者は、被告も原告も訴訟参加に関する判例法理との間には矛盾が生じる。他に、債務者による訴訟参加を考えているが、この点についても今後の議論の展開が期待される。[関連問題](1) 水面下ではBの詐害行為は甲土地の転売屋であったが、事実関係を整えて、Bは2023年10月1日、Bに対し、弁済期を2024年10月15日と定め250万円を貸し付けた債権者であったとする。B・Dは、同年10月15日、Dに対する金銭債務の弁済に代えてBが所有する甲土地を代物弁済とすることに合意し、同日、Dへの所有権移転登記を経由した。仮に、この代物弁済行為が民法424条の3に規定する要件を満たし、詐害行為取消請求が認容された場合、AはCに対してどのような請求ができるか。また、この取消判決の請求が容認された場合、Dが有していた貸付金債権250万円はどうなるか。あるいは同様の要件を満たさない場合はどうか。(2) 上記(1)の事案において、Dは甲土地取得の2024年12月7日、Eに甲土地を代金200万円で売却し、同日、その旨の所有権移転登記を経由していたとしたら、Aは誰に対してどのような請求ができるか。[参考文献]沖野眞已・百選Ⅱ80頁/茶園「詐害行為取消権の行使方法とその効果」(民事法研究・2020)106頁・174頁(富岡信一)
Aは、2031年10月5日、Bに対して商品を売却し、代金400万円の支払期日を2032年1月20日としたが(以下、両者間に係る売掛代金債権を「本件債権」という)、Bは2031年12月頃から、経営状態が悪化し、債務超過の状態に陥った。Bは唯一のめぼしい財産として2000万円相当の土地・建物(以下、「甲不動産」という)を所有していたが、2032年1月10日にBはお担保にするため抵当権が設定されていた。AはBに対する1500万円の貸金債権(被保全債権)については、翌月の支払に窮しない(利息・損害金については考慮しなくてよい)。(1) Bは、2032年1月10日、Dとの間で、甲不動産をDに500万円で売却する契約を締結し、C銀行甲支店の普通預金口座に振込送金された。Dは、E名義の口座に500万円の振込をし、甲不動産につき、売買を原因とするDへの所有権移転登記手続がなされた。AはDを被告として詐害行為取消訴訟を提起したいと考えている。AはDに対してどのような請求をすることができ、①被担保債権がまだ弁済されておらず当該普通預金口座がCの被担保債権を全額弁済し、当該抵当権設定登記が抹消されていた場合と②分けて、その当否を検討しなさい。(2) Bは、2032年1月10日、Cに対して、1500万円の債務の代物弁済として、甲不動産を譲渡し、同日、甲不動産につき遺贈を原因とする所有権移転登記手続がなされた。AはCを被告として詐害行為取消訴訟を提起したいと考えている。Cに対してどのような請求をすることができるか、その当否を検討しなさい。[参考判例](1) 最判昭和36・7・19民集15巻7号1876頁(2) 最判昭和54・1・25民集33巻1号12頁(3) 最判昭和63・7・19判時1299号70頁(4) 最判昭和42・11・9民集21巻9号2320頁(関連問題①)(5) 最判平成12・3・9民集57巻10号1532頁(関連問題②)(6) 最判平成12・3・9民集54巻3号1013頁(関連問題③)[解説]1 責任財産の範囲債務者の財産は、債権各種の引当てとなる責任財産を構成するが、債務者は、所有者としてその財産について処分権限を有するので、法律行為によって自由に財産を他者に処分することができ、それによって責任財産が減少して、債権者が対抗要件ほかを免れられないおそれがある。そこで、民法は、債権者が債権を害することを知りながらした行為について、債権者が、詐害行為取消訴訟を提起し、その行為を取り消して(424条1項・3項)、逸出した財産を取り戻すこと(424条の6)を認めた。すなわち詐害行為取消制度の射程範囲は、責任財産を保全するため、詐害行為(責任財産減少行為)を取り消して、責任財産の回復を図ることにある。本問において、甲不動産は、債務者Bの責任財産を構成するので、無資力(=債務超過)の状態においてその2分の1が不動産処分行為は、一体債務者を害する詐害行為として取り消される余地がある。ただし、甲不動産にCのために抵当権が設定されている点には注意を要する。判例・通説は、債務者の財産に抵当権等の目的物が設定されていた場合、その被担保債権を控除した残額部分のみが一般債権者の共同担保(責任財産)を構成としている(大判明治44・11・20民録17輯715頁、我妻栄『新訂債権総論』(岩波書店・1964)181・182・196頁など)。参考判例③が、「詐害行為の目的不動産に抵当権が付着している場合には、その取消は、目的不動産の価額から右抵当の被担保債権額を控除した残額の部分に限って許される」とするのはその趣旨である。本問においては、甲不動産の価額は2000万円相当であるが、そのうち1500万円分については、Cの抵当権によって優先弁済権(交換価値)が確保されており、Aを含めた一般債権者の責任財産を構成するのは500万円分ということになる。なお、財産分与行為によってなされたとして取消し請求できる場合であっても、詐害行為の成立には債務超過の要件を具備していなければならない(424条3項)。本問では、甲不動産の処分行為がなされたのは2032年1月10日であるが、Aが本件債権を取得したのは2011年10月5日であるので、この要件を満たしている。2 詐害行為の類型と要件詐害行為としては、贈与、売買、代物弁済、担保設定行為など種々の行為が想定されるが、2017年改正民法は具体的に、424条1項本文の「債権者を害することを知ってした法律行為」の解釈として、①詐害行為に当たることを知ってした相当な対価を得てした財産の処分行為、②特定の債権者に対する担保の供与もしくは債務の消滅に関する行為などを類型化して、その要件を明確化した。従来の民法の解釈との違いとして、「対抗要件具備行為」に至るとの把握が指摘されていたことから、1927年改正民法では、一般規定(424条1項)に2つ、類型ごとに特則を置いて、類型ごとの要件を満たすことを前提にさらに特則によって取消される要件を明示することとした。類型は、相当対価を得てした財産の処分行為の特則(424条の2)、特定の債権者に対する担保の供与等の特則(424条の3)、過大な代物弁済等の特則(424条の4)の3つである。小問⑴では、抵当権の負担のとれた甲不動産の500万円についてであるが、これを500万円でDに売却したというのであるから、相当価格の財産処分行為(424条の2)に加えて、特別規定である民法424条の2が適用される。Dに悪意や害意の要件がある場合は、同条1項のみの適用となるが、Dに害意はなく、②「隠匿等の処分」をするおそれを見抜けるものであり、かつ害意があること(2号)が要件となる。さらに、②一般規定(424条1項)に加えて(2号)が要件となり、受益者の悪意も害意も客観的な要件の有無で立証しなければならない(3号)。受益者の悪意も害意も、D名義の普通預金口座に代わる送金を望む。ように指示し、Dが指示どおり振り込んだというのであるから、「間接等の処分」のおそれおよびその意思が認定される可能性がある。小問②では、1500万円の債権に2000万円の不動産が代物弁済されている。この債権が唯一の債務である場合、1500万円の部分については、いわゆる偏頗行為(特定の債権者に対する担保の供与等)として、424条の3第1項の加重された要件(支払不能の時にされたものであり、かつ債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること)が満たされ、500万円の過大部分については、民法424条の4によって、一般規定である民法424条により取消しの請求が認められることになる。しかし小問⑵では、Cは一般債権者ではなく抵当権によって優先弁済権が確保された債権者であるので、そもそも被担保債権の範囲(1500万円)においては、甲不動産は一般債権者の責任財産を構成しておらず、詐害行為が成立する余地がない。よって、500万円分(消滅した債権の額に相当する部分以外の部分)についてのみ、過大な代物弁済として詐害行為取消権を行使できることとなる(424条の4・424条)。3 取消しの範囲および取戻しの方法詐害行為取消権の法的性質については、2017年改正前民法が「取消しを請求することができる」(旧424条1項)とのみ規定していたことから、形成権説、請求権説、折衷説の対立が存在したが、判例は一貫して形成訴訟を採用し(大判明治39・9・28民録12輯1154頁など)、訴訟物は詐害行為取消権一個である(最判平成22・10・19判時2155号16頁)、旧民訴法の「形成訴権」および財産の「取戻し」の両方の請求が可能であり、取戻しの方法は、「現物返還」または「価額賠償」によるが、可能な限り現物返還を原則とすべしとしていた(大判昭和9・11・30民集13巻2191頁)。2017年改正民法は、以上の判例法理をリステイトし、424条1項・3項で「取消請求」を規定するとともに、424条の6第1項前段および2項前段において、取消しとともに「財産返還請求」ができるとし、同条1項後段および2項後段において、その返還の方法をとることができると規定した。財産返還(現物返還)によるか、価額賠償(価額賠償)によるかは、取消しの範囲の問題(全部取消しか一部取消しか)に連動している。判例は、取消しとともに金銭の支払(価額賠償を含む)を求める場合には、取消しの範囲は原則として取消債権者の債権額に限定されるとしてきたが(大判大正9・12・24民録26輯2024頁)、2017年改正民法は、行為の目的が可分である場合および価額賠償請求をする場合には、「自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる」と明記した(424条の8第1項および2項)。抵当権付不動産の譲渡行為を取り消す場合の取消しの範囲と取戻しの方法については、一定の最高裁判決によって判例法理が確立している。判例は、①抵当権設定が抹消されていない場合には、可能な限り「全部取消+現物返還」を認めるべきであるが(参考判例②)、②抵当権が消滅後に取消の訴訟が提起されている場合には、「逸出した財産自体を原状のままに回復することが不可能若しくは著しく困難であり」、また、「債権者及び債務者に不当に利益を与える結果になる」ので、「一部取消+価額賠償」によるしかないとする(参考判例③)。共同抵当の目的とされた複数の不動産の譲渡が詐害行為となる場合において、後の弁済により抵当権が消滅したときには、「売買の目的とされた不動産の価額から右不動産が負担すべき右抵当権の被担保債権の額を控除した残額の限度で右売買契約を取り消し、その価額による賠償を命ずるべきであり、一部の不動産自体の回復を認めるべきものではない」とした(最判平成4・2・27民集46巻2号132頁)。なお価額賠償における価格算定は、原則として、取消しの効果が生じる受益者において財産返還義務を負担する時点、すなわち取消訴訟の事実審口頭弁論終結時が基準となる(最判昭和50・12・1民集29巻11号1871頁)。以上の判例法理は、2017年改正民法は、424条の6第1項後段および2項後段の「財産の返還をすることが困難であるとき」の解釈論として承継されることになろう。小問⑴の①のケースでは、「全部取消し+財産返還(所有権移転登記の抹消)」となるが、小問⑴の②のケースおよび小問⑵のケースでは、取消しが困難であるとして、「一部取消し+価額賠償」となる。その場合、取消しの範囲は、さらに被保全債権の債権額(本問では400万円)の限度に制限され(424条の8第1項)、取消債権者への金銭の支払が命じられる(424条の9第2項)。[発問]Aは、2031年10月5日、Bに対して商品を売却し、代金400万円の支払期日を2032年1月20日としたが(以下、両者間に係る売掛代金債権を「本件債権」という)、Bは2031年12月頃から、経営状態が悪化し、債務超過の状態に陥った。Bは唯一のめぼしい財産として2000万円相当の土地・建物(以下、「甲不動産」という)を所有していた(以下の設問に解答しなさい(利息・損害金については考慮しなくてよい)。(1) Bは、母親の介護費用が必要となったため、2032年1月10日、金融業者Cから500万円の融資を得るため、甲不動産を担保目的でCに譲渡し、同日、甲不動産につき譲渡担保を原因として所有権移転登記手続がなされた。AはCを被告として詐害行為取消訴訟を提起したいと考えている。AはCに対してどのような請求をすることができるか、その当否を検討しなさい。融資額が2000万円の場合はどうか。(2) Bは、債権者からの執行を免れるため、2032年1月10日、妻Dと協議離婚し、財産分与として、甲不動産を譲渡し、同日、甲不動産につき財産分与を原因として所有権移転登記手続がなされた。AはDを被告として詐害行為取消訴訟を提起したいと考えている。Dに対してどのような請求をすることができるか、その当否を検討しなさい。[参考文献]森田修・庇護Ⅱ32頁/片山直也・百選Ⅱ38頁/森田修・庇護Ⅱ40頁/Before/After・第2版 166頁(稲田正毅)・170頁・179頁(福井信一)・182頁(稲田正毅)・188頁(高嶋一朗)・190頁(篠原菊)(片山直也)
Aは歩行中にBの運転する自転車にぶつかられて転倒し、A所有の衣服が汚損する事故が起こった。A・B間で治療費や慰謝料、示談金としてAに対してBが800万円の賠償を支払うことで、和解が成立した。他方、個人事業主として工務店の営業をしているBは、常連の小売業者であるCに対し1000万円の売買代金債権を有していた。ところが、Bの製品について、世間に広く信頼を裏切るような事態が発覚して信用が地に落ちたため、CもBとの取引を打ち切った。このため、Bの経営は悪化して、CもBからの取立てを断念して債権は事実上焦げ付いた。その後、上記のようなBの窮状に関するニュースをインターネット等で知ったAは、BがCに対して有する売買代金債権について、AがBに対して上記和解金の支払を求めるため、Bは、「手元不如意な場合はCから回収してもらえれば自分の債権の全額を支払うので、そこから自由に取立ててもらってかまわない」と述べた。(1) AはCから取り立てるため、どのような手段をとることができ、AはBに代わって、どのような事実を主張する必要があるか。(2) (1)の手段に際して、Aの事実を証明する必要がある。(3) AがCに対する訴訟を提起した後、Bは確実な債権取立てをしてもらうべく、Cに発注元が同じであるDから仕事を紹介してもらい、DはCに発注元が同じであるために、CがDに発注した建設において代物弁済による納品では満足できないので、それはAに支払うようにと主張した。しかし、Aはこれによっても不足が生じると、Aは、Bに破産手続開始決定があり、Bの破産管財人Eが、Aの請求を否認した。Aが支払を拒むのに、どのような主張が可能か。[参考判例](1) 最判昭和40・10・12民集19巻7号1777頁(2) 大判昭和10・3・12民集14巻482頁(3) 大判昭和14・5・16民集18巻5号557頁[解説]1 債権者代位権の意義債権の効力として、債権者が債務者の財産を履行しない場合に、債権者は債務に対して請求し、それを強制する効力が認められている。ただ、債務者の消極財産(債務)の行使について債権者が関与することは原則としてできないとされる(債務者の財産管理権の尊重、特定財産の給付は可能であっても、債務者の無資力等の状態にありながら、自己の債権の行使を放置し、結果として債権者の権利の保全が図られないことは相当とはいえない)。そこで、民法は、債権者代位権の制度を用意し、そのような場合に例外的に債務者の債権行使に債権者が介入し、債務者に代わって自ら債権を行使することを認めている(本来の債権者代位権)。さらに、このような金銭債権の保全をこえ、債務者が有する債権の実現を図るため、当該債権と密接な関連を有する債務者の債権を債権者に代位行使することも判例上認められてきた。たとえば、ある不動産に関する債務者の登記請求権を債権者に代位行使する場合や、ある不動産に係る債務者の債権を実現するため、当該不動産を占有する者に対する所有者の妨害排除請求権を代位行使するなどである(転用型の債権者代位権)。そして、このような利用形態は改正民法によって一部明文化され、上記の登記請求権の転用型は規定された(423条の7)。ただ、登記請求権と観念されてきた転用型の一般原則の射程の問題を検討する。以下では、本問に即して、本来の債権者代位権、転用型の債権者代位権のいくつかの法律問題を検討する。2 債権者代位権制度の機能・保全執行制度との関係本来の債権者代位権の行使の場合において、債権者は債務者が第三債務者(第三債務者)に対して債権を有しているときに、債務者の金銭債権についてはどのような方法があるかを検討する必要がある。これについては、大きく2つの方法が考えられる。1つは、民事保全法に基づき、債務者に対して債務者の財産についての仮差押えの申立てをし、第三債務者に対しては当該債権執行を禁止する旨の仮差押命令がある。そして、そのうえで、債務者に対して給付訴訟を提起して債務名義を取得した後、民事執行法に基づき、その確定判決に基づき債務者の第三債務者に対する債権を差し押さえる方法である(その債権、当該債務あるいは転付命令〔一種の代物弁済〕によって自己の債権を終局的に実現することになる)。このような債務者の財産プロセスの予見の確実性を担保する方法も考えられる。Aは、BのCに対する売買代金債権を仮差押えしておけば、Bに対する800万円の判決を前提として転付命令の申立てあれば債権者Bは直接債務者に簡単な請求で第三債務者の資産を差し押さえ、その債権の取立てが代えって第三債務者に直接行使することが考えられる。もう1つの方法が債権者代位権を活用するものである。すなわち、債権者は、判例(後掲参考判例)に基づき、債務者の第三債務者に対する債権(被代位権利)を行使して、第三債務者に直接取立てることが認められ(4参照)、参考判例②のように債務者に代わって金銭債権を実現するため、あえて第三債務者に対し訴訟を提起して債務名義を取得し、その債権について取立て訴訟を提起したうえで強制執行をしても、その方法として債務者の債権(被代位債権)を債権者に代位して行使し、債権者(A)が自ら給付を受けることは何ら妨げるところではないと解されている。Aは自ら訴訟を提起して、債務者の800万円(423条の2参照)の代金債権の取立てを試み、その判決に基づいて直接800万円の弁済を受領し、Bに対する800万円の和解金債権と相殺することによって、債権回収を図ることができる。この2つの方法はいっかつの差があり、債権者代位権に利益が認められる部分がある。第1に、債権者代位権による債務名義が不要である。第2に、債務者代位権によって優先弁済が優先可能となる。第3に、債務者による取立て、債務者による処分、その他債権者による被代位権利の取扱いを制限するような手続規定という手続が不要となる。第4に、債権者代位権は費用も少なく、債権者にとっては、より少額の訴訟費用の負担ですむ(裁判外・裁判上、いずれも)。実際に実務で機能を果たしてきたことは大きな利点である。債権者代位権によって優先弁済が優先可能となる。債権者による取立て、債務者による処分が可能であり、その他債権者による被代位権利の取扱いを制限するような手続規定を前提に、債務者による取立て、債務者による処分も可能である。その結果、仮に他の債権者の存在に気づいたとしても、差押えと相殺による回収権限を第1順位にすれば、代位権者が優先権を得る結果となる。他方、民事執行による場合は、他の債権者が差押えに参加する配当参加(配当参加は期日指定の同時回収が原則)が可能であり、それが確定するまでには他の債権者の加入がありうる(民執159条3項)。第三債務者の無資力リスクを債権者が負担しなければならない。両者の手続は以上のような差異があり、債権者代位権に分があることは明らかである。かような背景から、ドイツ法的な保全執行制度とフランス法的な債権者代位権制度を融合させた現行法の「選択」主義であるとの説明もある(三ヶ月章「差し押えと証明」参照)。その後、今回の改正の過程では、本来の債権者代位権制度の存続をめぐって議論の対象となり、少なくとも上記の優位な点を制限する提案がされたが、結局採用されなかった。相殺による回収を制限する提案がなされたが、結局採用されなかった。債権者代位権で弁済が十分可能な場合に、他の債権者の協力を得られる機会が奪われる場合があることは問題だが、優先権がない債権者間の分配の機会をなくすこと、差押えによる参加の機会を与えるべきとの意見が多数を占めた。差押えは無意味である場合が多いことなども理由に、被代位権利の行使について債権者の処分の自由が禁止される旨の判例法理は否定されたため (4参照)。や第三債務者の債権者への弁済の可能性があるような事案では、実際上、仮差押えが不奏功に終わり、履行確保が困難となることがある。以上から、判例は間接強制をルートと履行確保を図るルートの選択に悩み、具体的事情いかんによってはどちらのルートをとるかを判断する必要がある。具体的には、本問においては、Aの被保全債権が優先回収されるとは限らず、債権者Bへの債権の回収不能のリスクが大いに伴うと判断される場合、優先回収をあきらめ、債権者Dの協力を得てBに請求することで強制執行を考えるべきである(参考判例②)。他方、小問⑵では、Aは複数のBに対し、債務名義をえてCから800万円の支払を受けることは可能だが、Bの資産状況が非常に悪化しているため、AがCから825万円の支払を受けるのは事実上困難である。他方で、Bに対するAの債権の回収は直接の債務の履行の確保に有効に寄与しうる(ただし、債権者による相殺権の行使(71条参照)が別途あることには注意を要する)。3 債権者代位権の要件債権者代位権の行使要件について、「自己の債権を保全するため必要があるとき」にその行使が可能とされる(423条1項本文)。単に主観的な保全目的だけでは不十分で、客観的な必要性があることが要求される。債権者無資力の要件が明記されたが、これは責任財産の保全の観点から当然の要件とされてきた(参考判例①)。「債務者がその資力で十分でない場合」に代位権が使えることを2017年改正民法は423条の2として明らかにした。判例もこれを肯定しており、無資力性の要件の要否をめぐる議論の蓄積があったが、債権者無資力の必要性について、責任財産の保全という要件として、明文の規定を設けることになった。この要件が充足されるとなると、無資力状態にあることを債権者が立証する必要があることになるところ、無資力(支払不能)一般の解釈に服せしめるのは妥当ではない。ただ、訴訟手続の通常事実では改正後も維持されると解されよう。事実上、被代位権利(債務者保護の対象となる「債務者に属する権利」423条1項本文)の価値では、一身専属権のほか「差押えを禁じられた権利」(代位行使が許されない(同項ただし書))、たとえば、年金受給権(同条4項など)等は債務者の責任財産を構成しないので、代位権行使の対象外となる。債権者代位権を行使した結果、本来差押えによる回収ができないような財産について、代位・相殺によって債権の回収を図ることは不当な抜け穴であるからである。他方、被保全債権関係(債権者代位権の根拠となる権利)の要件として、第1に、原則弁済期の到来(423条2項本文)について、裁判上の代位の制度(非訟旧85条以下)を廃止し、保存行為の場合だけに行使を限定している(423条2項ただし書)。これは、裁判上の代位は利用率が著しく低く、保存行為の場合、期限未到来の被保全債権も一般的に対象となる民事保全制度(民保20条2項参照)による保全が可能であることによる。ただし、転用型では裁判上の代位の利用があったようであり、期限未到来の場合の権利の行使については引き続き解釈に委ねられ、この要件は転用型には及ばないとの解釈の余地もあるであろう。第2に、強制執行により実現できない債権に基づく代位は許されない(423条3項)。この制度が債権の円滑な回収のための制度であることに鑑み、執行力・強制力のない債権(不執行の合意がある債権やいわゆる自然債務)にまで被保全債権としてその効力を及ぼすとの見解を明確化したものである。以上から、小問⑴後段では、以上のような要件を主張する必要があることになるが、本問では特にBの無資力の立証が問題となると考えられる。Aとしては、Bの財産状態が悪化して債務の履行が困難になっている状況についてたとえば、Bが手元に現金がない状況を自認しているのであれば、その陳述等を証拠として、立証していくことになろう。4 債権者代位権の行使代位権行使の方法について、被代位権が金銭の支払または動産の引渡しである場合には、自己に対する支払・引渡しを求めることができる(423条の3前段)。また、そのような支払・引渡しによって被代位権利が消滅する(同旨後段)。前段の趣旨は判例(参考判例①)の明文化であり、そのような直接給付が認められないと、債務者が給付を受領しないときには債権保全が全うできないことになり、債権者代位権の制度を没却することを根拠とする。立案段階では、債務者に対する給付のみを容認し、債務者による直接の給付請求を認めない旨の原案も検討された。これは債権回収機能を否定する最もドラスティックな提案であったが、代位権行使の結果の帰属と同様、債権者が受領した場合にも債務者の責任財産に帰属し、相当ではないとされた。後段では、以上のような直接の支払または引渡請求権の行使を受けて、その支払等による被代位権利に係る債務の消滅を対抗しうる。そして、訴えにより債権者代位権を行使する場合、代位権者は債権者代位訴訟の提起を遅滞なく通知をしなければならない(423条の6)。債務者が訴訟告知という民事訴訟法上の規定を介して債務者に対して判決効が及ぶと解されている(民訴115条1項2号)。しかし、債務者に対して訴訟係属が知らされないにもかかわらず、代位権者敗訴の既判力が及ぶことに対しては従来から民事訴訟法理論において根強く批判も、債権者代位訴訟の提起を被告に通知せず、代位権者(被告)の訴訟追行を放置すると(民事訴訟)など多くの議論を呼んできた(議論の錯綜により、旧民法時代の「主観的訴訟担当」 伊藤眞=山本和彦『民事訴訟法の争点』(有斐閣、2009)324頁以下など参照)。本改正は民事訴訟法における様々な提案を立法により解決するものではなく、あくまでも民事訴訟の特殊性ゆえに債権者代位権におけるもののみを解決するものである。また、債権者代位権の行使があったのち、債務者自らが第三者に対して取立てその他処分をすることは妨げられない(423条の5前段)。すなわち、代位権が行使されたとき、債務者が通知を受けたあと「不当な処分」行為等が禁止される(参考判例③)、債務者から第三者に対して訴訟を提起することは認められる。もちろん、債務者が代位権の行使に悪意ではないかぎりその効力を否定できないのであり、債務者の処分権を奪うことによってその地位を不当に害することになるからである。その結果、債権者代位権行使と債務者による直接処分が衝突する場合もある。その場合には、債権者代位権を行使する債権者はその被代位権利を仮に差し押さえることもできるし、譲渡や免除等の処分も自由に行える。そのため債権者が債務者の財産を管理することは許されず、別途、所定の要件の下に詐害行為取消権を行使することになる。て、第三債務者も被代位権利につき債務者に対して履行することを妨げられない(同旨後段)。第三債務者は有効な代位権行使かどうかを的確に判断できる保障はなく、判断を誤った場合の二重払のリスクまで債務者に負担させることは不当であり、履行禁止という効果を債務者に帰属させる等の申立てをすべきこととなる。以上から、小問⑵では、BのDに対する債権譲渡は民法の上下では有効であり、Cに対するBの責任財産ではBの責任財産ではなくなるので、Cの抗弁は正当なものとされ、Aの請求は棄却されることとなる。[発問](1) AはBに対して1000万円の売掛金債権を有していたが、Aは当該債権の取立てを怠っており、このままではX年X月X日に消滅時効期間が経過してしまう。この場合、Aに代位するBは、Cに対してX年X月X日を履行期とする1000万円の損害賠償債権を有するほか、債権者代位権を行使して、上記売掛金債権を取り立てることはできるか。(2) AはBに対して1000万円の売掛金債権を有していたところ、Cに対する1000万円の売掛金債権を有すると主張するBが債権者代位権を行使して、上記売掛金債権の支払請求訴訟を提起した。Cは、BのAに対する債権はすでに弁済済みであると主張している。上記訴訟は自己の債権の回収に充てたいと考えている。この場合、Dはどのような対応をとるべきか。[参考文献]潮見佳男/山本和彦「債権者代位権」NBL1047号(2015) 42頁(山本和彦)